今シーズン、カーネギーホールでジャパン・フェスティバルが開催されます。 初日の12月14日には、本フェスティバルの芸術監督を務める小澤征爾氏が、治療から復帰して初めて本格的に指揮棒を振ることになります。
小澤氏は、20代で全く無名だった頃、一人貨物船に乗り込みヨーロッパに渡り、日の丸を掲げたスクーターでヨーロッパ各地を周りながら、ブサンソン・コンクールやバークシャー・コンクールに飛び込み参加で優勝し、わずか2年半の間にニューヨーク・フィルハーモニーの副指揮者にまで登り詰めます。その後も、カラヤンやバーンスタインといった多くの巨匠と交友を深めながら、ボストン交響楽団の音楽監督、ウィーン国立歌劇場の音楽監督等を歴任し、ウィーン・フィル、ベルリン・フィル等にも数多く出演し、2002年にはウィーン・フィルのニューイヤーコンサートを日本人として初めて指揮、本年11月2日には、ウィーンフィルの「名誉団員」の称号を付与されました。
小澤氏の指揮者としての成功への道は、24歳の時に参加したフランスのブザンソン・コンクールでの優勝から始まったとも言えます。この時、実は小澤氏の応募は締め切りを過ぎてしまっていましたが、パリのアメリカ大使館の方が小澤氏を見込んでコンクール主催者に特別にお願いして小澤氏の応募を受け付けてもらったそうです。その意味で、巨匠小澤征爾の最初の一歩は、アメリカに大きく助けてもらったものとも言えます。そして、小澤氏の本格的なキャリアは、ニューヨーク・フィルの副指揮者としてカーネギーホールを拠点に始まりました。それから何十年を経過した今年、小澤氏はジャパン・フェスティバルの芸術監督として、再びカーネギーホールに立つことになります。
ジャパン・フェスティバルでは、この他にも、内田光子(ピアノ)、五嶋みどり(バイオリン)、バッハ・コレギウム・ジャパン(鈴木雅明指揮)、NHK交響楽団(Andre Previn指揮)、秋吉敏子(ピアノ)、小山・新田デュオ(三味線)、小林愛美(ピアノ)、武満徹(作曲家)メモリアル等数多くのコンサートが予定されています。
また、様々なイベントや展示会がカーネギーホールの外でも開催されます。リンカーンセンターでは「鼓童」(太鼓)、ジャパン・ソサエティでは「白隠展」(禅画等)、「花習塾能シアター」、「バイバイキティ」(日本のコンテンポラリーアート)、アジア・ソサエティでは「奈良美智展」(ポップアート画家・彫刻家)、グッゲンハイム美術館では「ピーターと狼」コンサート(村上隆氏発起のカイカイキキのアートと共に紹介)等数多くのイベントを楽しむことができます。
かつて、日本を訪問したバーンスタインは、東海道の海辺の美しさにうたれ、小澤氏になぜこんな美しい母国を離れてニューヨークに来たくなったのか聞いています。これに対し、小澤氏は、「ボクも日本を美しいと思わないわけではない。ただ西洋の音楽を知りたくて飛び出して行ったのだ。その結果西洋の音楽のよさを知り、また日本の美しさも知るようになった」と答えています。西洋音楽の素晴らしさ、日本の芸術文化の素晴らしさの調和を、カーネギーホール・ジャパン・フェスティバルでご満喫ください。
詳しくはこちらから(http://www.carnegiehall.org/article/box_office/series/brochure/japannyc/index_jp.aspx)
(参考文献:小澤征爾『ボクの音楽武者修行』新潮文庫、昭和55年)