人種、民族、宗教などへの偏見、差別感情が原因で起こる犯罪「ヘイトクライム」が最近米国で多発しています。
ヘイトクライムの現状について以下のとおり紹介します。
1.米国で増加するヘイトクライムの現状
(1)FBIが公表する2003年中の全米に於けるヘイトクライム事件数
は7,489件、被害者総数は9,100人に上っています。
(2)今年に入り特に目立って発生しているヘイトクライムは、特定宗教を狙うものと、(非米国籍)移民コミュニティーに対してのものです。本来の典型的なヘイトクライムとは、南部の保守層が集まる地域で、白人至上主義者が特にアフリカ系アメリカ人に対して行ってきた憎悪犯罪ですが、多様な宗教と移民が混在するニューヨーク市は、米国で特にヘイトクライムの発生率が高い地域となっています。
この様な状況の中で、移民、非移民を問わずニューヨーク市とその近郊に多数居住する日本人コミュニティーが
、ヘイトクライムの被害に遭遇しないよう、次にヘイトクライムの実態を検証し対応策を紹介します。
2.ヘイトクライムの分析と検証
(1)1990年以前は、殺人やレイプを含む重犯罪が人種差別や宗教偏見を動機とする犯行であったとしても、ヘイトクライムとして統計化するものは無く、犯罪防止分析に大きな支障をきたしていました。
(2)米議会は1990年、長年社会問題として注目されていたヘイトクライム事件を各州、市政府の警察機構が犯行動機別に統計化し、FBI犯罪白書に記載させる法案を通過させました。その後
、各州の警察機関は人種、宗教偏見を動機とする犯行をはじめとする差別犯罪行為の検挙に努め、2000年には同犯罪数は減少に向かいました。しかし最近、再度ヘイトクライムの事件数がニ
ューヨーク州とカリフォルニア州の大都市間で増加している現状にあります。
(3)ヘイトクライムが目立ってきている一番の原因は、2001年の同時多発テロが発端となっていますが、加えて現在多数の戦死者を出しているイラク戦争により米市民感情が激化し、増長しているといえます
。ニューヨーク市とその近郊には、約140万のユダヤ人と推定80万人のイスラム教信者が居住しており、イラク戦争が泥沼化するに従い両者を巻き込んだヘイトクライムが沸き立っています。また、今までニューヨーク市では比較的寛容であった移民に対する偏見意識がこの処大きく変わってきています。
(4)移民コミュニティーを狙ったヘイトクライムは、凶悪犯罪化傾向には無いものの、駐車中の車に人種(宗教)差別感情を込めた落書き等の嫌がらせを受ける事件等が発生しています。また、他の人種グループ間でも連鎖的にヘイトクライム事件が各地で起こっています。対立する人種構成は様々で、ヒスパニック系がモスリムアラブ系人種を襲う事件や、クリスチャン系白人が東アジア系やトリニダード移民を狙う事件も発生しています。
3.問題点への対応策について
(1)ブルームバーク・ニューヨーク市長は、市の総犯罪発生率が現在も減少傾向にある中、最近多発しているヘイトクライムを市 警察の最重要検挙課題の一つとして市警察コミッショナーに要請しています。
(2)現在、ニューヨーク市において邦人に対する直接的なヘイトクライム犯行の事実は、数例の脅迫行為を除いて確認には至りませんが、新しくニューヨークに住み始めた人を含め、ヘイトクライムの被害者にならないよう、日々の生活に細心の注意を払い行動する必要があります。
4.ヘイトクライムに遭わない為の注意事項
(1)ヘイトクライム事件の83.5%は加害者と被害者が何らかの面識のあるようです。生活の中で文化や習慣的な面で他人種と摩擦があった場合は、識者に相談するか、調停を入れるなどしてお互いの誤解を解いておくとよいでしょう。
(2)新しい住居を探す場合、その住居地付近で人種、民族摩擦等によるヘイトクライム事件が起こっていないか調べましょう。
(3)常識的な防犯習慣を怠らないことです。深夜ひと気の少ない路上やサブウエイの一人乗りで高価なバッグを持ったり、居眠りをするのは禁物です。
(4)アパートや家の防犯対策に常に気を払いましょう。
(5)車はゲートセキュリティーや係員の居る駐車上にとめるのが 最も望ましいですが、その場合でも貴重品は車内に残さないこと
です。
(6)常識意識を持ち、犯罪発生率の高い地区や見知らぬ地区には不要に立ち入らないようにしましょう。
(7)アメリカ人を含む他人種より、人種、文化、宗教的な偏見による脅迫行為や暴行等の被害を受けた場合は、最寄警察署のヘイ
トクライムの担当部署に通報し、事件の凶悪化を防ぐようにしましょう。 ヘイトクライムに関する通報、相談は市警察ヘイトクライムタスクフォース課の次のメールアドレスでも行えます。
HateTF@NYPD.org
5.関連データ
(1)ヘイトクライムの統計化が施行された1990年の事件発生の報告件数は、全米でわずか11州の警察機関のみでしたが、その後1992年にはFBI犯罪白書にて本格統計化が始まり、全米のほぼ全州が事件報告を始めました。 (2)ヘイトクライムの40%近くは被害者への暴行、脅迫行為や嫌がらせによるもので、60%が建物や物に対する窃盗、放火を含む器物破損行為です。尚、上記中0.8%の犯行対象は個人では無く、何れかのコミュニティーを狙ったものとなっています。 (3)ヘイトクライムとして指定された事件の内、83.5%は被害者と何らかの面識のある者によって犯行が行われています。
(4)ヘイトクライム事件の犯行動機:
人種差別 51.4%
宗教差別 17.9%
性的志向差別 16.6%
民族差別 13.7%
身体的ハンディー差別 0.4%
(5)ヘイトクライム加害者の人種構成:
白人 62.3% 黒人 18.5% その他 8.5% 不詳 10.7%
(6)ヘイトクライム被害者の人種(民族)構成:
白人 21.5%
黒人 66.2%
アジア諸国 6.0%
その他 6.3%
(7)ヘイトクライム被害者の宗教構成:
ユダヤ 69.0%
イスラム 11.0%
カソリック 0.5%
プロテスタント 0.3%
その他 19.2%
|