9月12日夕刻、総領事館において、小児・乳児における心肺蘇生法を演題とした講演会が開催されましたので、その内容をご紹介します。この講演会は、米国医師会主催、ジャムズネット後援により開催されたもので、コロンビア大学プレスビテリアン病院循環器内科の武井康悦医師と、東京海上記念診療所の加納麻紀医師が講師として招かれました。
講演内容
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まず、加納医師から小児における救急についての一般的な注意点について説明があった。
冊子『母子保健事業団発行の海外での子供の事故防止と救命救急』(仲本光一他監修、母子保健事業団発行)に詳しく書かれているので参照してもらいたいが、乳児、幼児においてまず注意すべきは落下事故(Fall)である。頭を打った場合であるが、吐いたり、顔が青くなったりしていなければ様子を見て良い。当地ではアパートの窓にWindowguardがしっかりはまっているかの確認も大切である。そのほか、やけどにも注意が必要で、乳幼児の場合、皮膚が弱いので大人にとっては少し冷めたコーヒーでもやけどする事がある。さらに、窒息、毒物、水の事故も多い。部屋の周辺を危険がないか予め全てチェックしておく必要がある。子供の心肺蘇生で大切な点は、大人と異なり、まず呼吸が止まって心臓がとまるケースが多いという点であり。呼吸が止まった状況に注意して対応する必要がある。
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続いて武井医師が小児、乳児における心肺蘇生法について講義を行った。
(1)内因性の突然死の数は米国では毎年40万人、日本でも5万人以上と言われ、今後、高齢者人口の増加に伴い、さらに増えると予想されている。ドリンカーの生存曲線と呼ばれるものがあるが、これによれば、呼吸停止後、分きざみで生存率が下がり、7ー8分でほとんど0に近くなる。ちなみに日本で救急車到着までの平均時間は6.5分と言われており、ほとんどのケースが間に合わない事になり、救急隊が到着するまでの処置の重要性が指摘されている。
(2)救命の連鎖は4つの輪で成り立っていて、成人の場合、?@迅速な通報、?A迅速な心肺蘇生、?B迅速な除細動、?C二次救命処置である。小児、乳児の場合は、?@適切な予防、?A迅速な心肺蘇生、?B迅速な通報、?C二次救命処置となっており、最初の3つはいずれも現場にいる人が行う必要がある。
(3)突然死の多くを占める心室細動は、電気的除細動処置が最も効果的な治療である。この処置を行う自動体外式除細動器(AED)は日本でも爆発的に普及し、病院、老人ホーム、学校、空港、競技場、ホテルなどに設置されている。AEDの普及により救命率が上昇したとのデータもあるが、上昇が認められなかったとする報告もあり、AEDの前、できるだけ早期から十分な強さと十分な回数の胸骨圧迫(心臓マッサージ)が絶え間なく行われる事が重要、と2005年の国際コンセンサスで見直しが行われた。
(4)小児、乳児の心肺停止の特徴として、?@大部分は親、シッター、保育士などの監視下で発生している。?A原因の大部分は進行性呼吸不全とショックである。?B心臓が原因である事は稀。?Cほとんどは低酸素、高炭酸ガスの血液状況となり、徐脈となり心停止となっている。などが挙げられる。
(5)心停止の原因としては、?@外傷(約50%)、?A溺水、?B熱傷、?C窒息、?D中毒などの順となっている。咳、鳴き声、手足の動きなどの反応がない乳児、小児の場合の処置の手順は、?@乳児・小児を硬い平面にのせる、?A呼吸、循環の確認、?B救助者が二人の場合救急車を呼ぶ、?C一人は気道を確保し口腔内異物を確認、?D心肺蘇生、?E救助者が一人の場合?C、?Dを5サイクル行ってから救急車を呼ぶ、となる。
(6)実際の手順
- ?@反応を見る。乳児の足の裏をたたきながら大声で反応を見る。強く体をゆらさない。反応がなければ協力者に救急車要請をしてもらい、自らは心肺蘇生を開始する。
- ?A応援要請。人を呼ぶ、911に連絡を依頼する。AEDを持ってくるように頼む。
- ?B気道確保。頭部の後屈、顎の挙上。
- ?C呼吸確認と人工呼吸。Look:胸郭の上がりを見る。Listen:息・咳を聞く。Feel:息を感じる。
- ?D脈拍確認。小児の場合は、脇の下、そけい部を触れて確認。
- ?E胸骨圧迫。脈拍が無い、あるいは1分間に60以下の徐脈の時に行う。脈拍がはっきりしなくとも、意識、呼吸がないときは速やかに胸骨圧迫を行う。胸の真ん中、両乳頭を結んだ線の真ん中胸骨上を胸の厚さの1/3から1/2の深さまで。最低でも1分間に100回。小児は片手、乳児は指2本で。
- ?F胸骨圧迫+人工呼吸。一人だけで行う場合、胸骨圧迫と人工呼吸は同期して交互に30対2の割合で継続。小児・乳児で二人以上を行う場合は15対2の割合で継続。
- ?GAED装着。AEDは届き次第すぐに装着。電源を入れ、パット装着。1歳未満はAEDは使用できません。
- ?HAED実施。解析開始し音声の指示に従って除細動。小児は小児用パットで。
- ?I胸骨圧迫再開。除細動実施後すぐに胸骨圧迫を再開する。2分後にAEDが再解析を開始。
- ?J胸骨圧迫交代。疲れてきたら、5秒以内で交代する。
- ?K再開したら回復体位にする。
- ?L引き継ぎ。MIST。Mechanism:受傷・発症機転。Injury:受傷部位・主訴。Sign:症候・症状。Treatment:処置について引き継ぎする。
(7)窒息について。
軽度の場合には、咳を促す。重傷であれば救急車を呼び、気道を確保してHeimlich法を試みる。万国共通の窒息サイン(手を首にあてる)に注意する。乳児の場合には内臓損傷の危険がありHeimlich法は行わない。Heimlich法は、?@背部に回り、(子供の場合片膝をついて)傷病者の胸に両腕をまきつける、?A片手で握りこぶしを作る、?B握り拳の手の親指側をみぞおちの近くにおく、?C握りこぶしをもう片方の手でつかみ、すばやく腹部を突き上げる、?D異物が排出されるまで、実施する、といった手順である。
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乳児の場合の窒息解除法
- 背部叩打法:
- 片膝をつく、片手で頭部と下あごを保持する(首を圧迫しない、親指と人差し指であごを保持)、強く背中を5回叩く(1秒に1回)。
- 胸部突き上げ法:
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片膝をつく、ひっくり返して後頭部を保持する。両乳頭の中間のすぐ下で胸部突き上げを5回行う(1秒に1回)
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最後に、乳児の人形を使って、ガイドラインに沿った心肺蘇生法の実習が行われた。
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