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シニアウィークにおける介護者向けメンタルヘルス・パネル講演会 (概要)

2007年10月29日
  1. 日時:9月19日(水)18時から20時

  2. 講師:
    ブロック和田一恵、LCSW
    渋沢田鶴子(ニューヨーク大学社会福祉学部准教授。PhD, LCSW)
    進藤由美(高齢者問題協議会)
    進行:
    バーンズ静子(NY教育相談室)


  3. 概要:

    (1)介護者の心の悩み、喜び (講師:ブロック和田一恵氏)

    “敬老の日”に代表される日本文化における敬老の精神は他に類をみない独自な価値観であり、ニューヨークでこのように実施されるシニアウイークはすばらしい試みである。

    アルツハイマー協会の2006年の統計によれば、介護をしている対象は、母親が36%、祖父母16%、他人(訪問看護婦)13%、義理の母11%、親戚10%、父親8%、配偶者6%となっており、87%は家族が介護している事になる。介護者特有の精神状態としては、過度のストレスによる無気力感、怒り、罪悪感(サービスが十分でない感じ。怒りを感じる事により自分を責める感じ)、不満、義務感、悲しみ、心配、不安、犠牲、憂鬱感などがある。これが進むと睡眠障害や、鬱症状として現れる事がある。一方、ポジティブな感情としては、配慮、思慮のある思いやり(家族の中で言わなくてもわかるという感じ)、役立っている感覚も生じる。また、親子の場合、立場の逆転やジレンマを感じる事もある。日本にいる高齢者への介護の場合、当地の生活が丸ごと犠牲になる事もある。一方、ポジティブな面としては新しい絆の発見(今までなかった話し合いの時間を持てた)という側面もある。

    心がやすらぐようなコミュニケーションのあり方を心がける事により介護者と被介護者の関係が良くなる上に介護者は肯定的な心理状態となる。記憶障害の場合、話を繰り返したり、身だしなみも悪くなり、人格の変化が生じるような事もある。また妄想的経験のため、嘘のような事を言う事もある。亡くなったご主人を「旅行に行って帰ってこない。」などと言う。これに対して、「そんな事はない。違う」と否定すると、また同じ話をくりかえしてしまう。その奥の隠れている深い感情を見つける事が必要。「そうなんだ。」と受容する事により、「I miss him」というような感情の表現をする反応が返ったという例もある。思い出の写真を見たりして”懐かしい“、”寂しい”、“悲しい”などの感情の表現を促し共感してあげる事が必要。

    妄想的な「大事な物が無くなった。誰かが盗んだ」というような話に対して、否定してしまうのはよくない。「それは困るよね」等と対応すると、受容された気持ちになる。奥深い象徴的な意識としては自分にかつてあったコントロールや独立心の喪失感を訴えていると考えられる。介護におけるそういう対応はたいへんだとは思うが、自分は一人ではない。 交流会などに参加する事によって情報や経験話を交換し、連帯感やネットワークを持ち介護している人はたくさんいるという事を理解して、一人で抱え込まない事が重要である。

    (2)介護関係とメンタルヘルス(講師:渋沢田鶴子氏)

    米国は現在65歳以上が13%であるが2030年には20%、85歳以上は2025年には31%増加すると言われていて、高齢化が進んでいる。日本は以前から高齢化が進んでいるが、米国ではベービーブーマーと呼ばれる世代が2011年に初めて65歳になることをきっかけに高齢化社会が注目されてはじめている。高齢化する事による難点は、日常動作に支障が出る事であるが、他には、痴呆の問題が20〜40%に発生。さらにうつにかかりやすくなる事であり、20%以上の方がうつになるといわれている。米国での社会の問題として、急性期の医療が中心で地域社会における長期ケアシステムが欠如している点。サービスが統合されていない問題(医療機関や施設の連携の不備で一貫したケアが受けられない)。高齢者のための医療、専門家がいない事などがある。そんな状況で、家族が最も長期ケアを行っている。これは日本もアメリカも同様で、米国も家族が80%で、ナーシングホーム滞在者は5%に過ぎない。家族の介護の金銭価値は年に$2750億と言われている。

    ケアのシステムが整っていないため、介護者はストレスが増加する。ストレスには肉体的、精神的なものの両方が含まれる。ストレスの状況は介護関係により異なる。配偶者、特に妻は夫の面倒を見るのに慣れているため、ストレスは娘と嫁よりも少ないという調査結果がある。娘が父親を介護する場合ストレスが一番高い。息子が両親を介護する場合は直接介護をするのでなくサービスを手配する傾向が娘に比べ高い。

    米国のアジア系社会も高齢化している。ベトナム系、インド系、韓国系、フィリピン系、中国系移民の場合、90%近くが外国生まれであるが、日本の場合、外国生まれは28%のみである。このため英語が不自由でない人も多く、日本語のサービスの必要性に関する意識が中々高まらない状況にある。また日系社会と言っても一世、二世、帰米二世、新一世(戦後)と多様化しており価値観も様々である。西海岸は高齢化した一世のために1960年代後半から高齢者施設が出来た。しかしNYは移民が少なかったので、日系社会が一体となって高齢者施設を作ろうという意識が低い。

    介護においては文化的背景が重要である。日本的考えでは、介護を受ける側は依存的になり、自分よりも家族の希望を優先してしまう傾向がある。また、自己主張せず、介護に問題があっても「仕方がない」と我慢する事が多い。このためうつ的になるという面もある。介護関係でもストレートなコミュニケーションが難しく、「はい」が、NOという事もあり、介護者がより気を遣う原因になる。介護を受ける側のストレスとしては、喪失、身体機能、知的機能の低下、社会的孤立、依存が進むという状況がある。日本的考えで、お返しができない、苦情を言わない、頼むのは面倒くさい、といった事が、結局ストレスをため込む原因に繋がる。言わなくてもわかってくれるという期待がある。また自己主張したら仕返しされる(嫁姑関係)という状況も時にはある。

    ストレスの対象法としてABC-Xモデルというのがある。これは認知行動療法の考え方だが、ストレス下の状況をA:ストレスとなる出来事、B:出来事に対する反応を緩和する資源、C:出来事に対する考え、そしてX:ストレスへの対処として考えることができる。どうやってC、自分の考え、物の見方を変えられるかが重要になる。ストレスとなる事象に対して二つの対処方法がある。一つはストレスの原因となる出来事を解決すること。今一つはストレスに対する自分の思考や感情を変えることである。たとえば、感情を調整し、いらいら・感情に対処する。また、「自分さえもっとがんばれば」という偏った思考のパターンに気づく事が重要である。一人で介護の重荷を背負うのでなく他者やサービス機関に援助を求める事が必要である。もう一つは、介護者同士のグループで励まし合い、お互いに指摘しあいながら助け合う事が重要である。

    (3) 介護者としての心構え  (講師:進藤由美氏)

    看護とは患者の病気、怪我を治すために行われる医療行為とそれに伴う援助だが、介護とは長期的スパンで日常生活そのものを援助するものである。また、子育ては子供の自立が終点だが、介護は要介護者が亡くなった時が終点であるという点で、子育てとはまったく異なる。 日本では高齢者数の増加にあわせ、1980 年代、90 年代に政府が音頭を取って高齢者施設(特別養護老人ホーム等)や介護支援員(ソーシャルワーカー、介護士など)を設立、育成していった。

    施設の経験で学んだのは、「十人十色」、「千差万別」ということ。年齢、病気が同じでも、それぞれの高齢者のバックグラウンドは全く異なる。対象者の好み、くせ、好きな物を知ることが介護をスムーズにする上で重要で、とくに「つぼ」を抑える事(「これを言えば機嫌がよくなる言葉」等)に気を遣った。高齢者のメンタルヘルスを考える上で、ストレスを引き起こすと思われるものに対して、高齢者自身がどこまで対応できるのか、または誰がそれに出来るのかを把握しておくことが重要。介護者自身の心身状態も、高齢者のメンタルヘルスに大きく影響する。介護する側がイライラしていては、介護される側も遠慮してしまう。

    ご家族による介護の場合、どうしても感情が絡んでしまう。そのため、普段から高齢者の生活全般(年金、医療保険、福祉サービス、身体的・精神的特徴など)について知っておくと、いざという時に自分がパニックせず、落ち着いて対処できる。また、介護サービスや専門家をうまく使うこと。介護をしているのは自分だけではないということを認識し、他の人の経験を聞くなどしてネットワークをつくること、後悔しない介護をすること、納得して見送る、という点に留意していただきたい。

    介護の先輩に言われた事。1.疲れていても口紅だけは塗りなさい(顔を明るく見せて、高齢者を安心させよう)。 2.嫌なことがあっても笑顔で送りなさい(一日の終わりに必ず笑顔で挨拶しよう。いざという時、後悔が少ない)。夜寝るとき、「おやすみ」とニコッと笑ってあげる事が高齢者にとっても自分自身にとっても大切である。

  4. パネルディスカッション

    続いてパネルディスカッションが行われた。聴衆の方から、介護の経験談が語られた。日本は政府が主導的な面があるが、米国の場合は市民が声を上げていかないと動かない。米国は高所得者用の施設はあり、低所得者向けには社会保障があるが、中間所得者は難しい状況にある。米国人は、早期から自分の老後について考え、資金運営の準備をしているのが普通である。また聴衆から、介護のポジティブな面を強調して欲しいとの意見が出された。これを受け、渋沢氏より自身の経験から高齢者から学ぶ事が多かったとの感想、進藤氏より高齢者から得た人生経験・ネットワークの広がりの大きさに驚かされた経験が語られた。サクセスストーリーについても広報していく必要性が確認された。

 
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