概要:(1) 高齢者が受けるべき予防接種、骨粗鬆症予防法(講師:木村啓子医師)
高齢者への予防接種は基本的には安全である。風邪(微熱、咳)であれば大丈夫であるが、高熱が出ている時には接種は避けるようにしてほしい。予防接種によるリスクよりも病気のリスクの方がはるかに高いのです。また注射による筋肉痛などのリスクは1%未満のみ。
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インフルエンザワクチン
インフルエンザは
熱が出て筋肉痛等が生じるウイルス性の疾患である。予防接種は秋・冬に受けるようにしてほしい。日系人会でも10月24日に予定している。2月か3月でも良いが早めに接種するのが良い。持病(呼吸、心臓病)がある人、ナーシングホームにいる人は必須です。酷い卵アレルギー、前回の接種でアレルギーを起こした人、ギランバレー症候群になった人は接種を受けないようにしてください。
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肺炎の予防接種
肺炎は
20人の罹患者の内一人は死亡する病気である。65歳以上の人は受けてほしい。インフルエンザと同時接種も可能。持病(呼吸、心臓病)をお持ちの方は是非受けてほしい。接種一生に1回で大丈夫。65歳以下の場合でも、慢性病をお持ちの方や脾臓を摘出した人、臓器移植を受けた人は接種が可能。肺炎の原因にはさまざまな細菌やウイルスがあるが、この予防接種は1種類の細菌による肺炎を予防するもの。
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破傷風
破傷風は、
まれに発生する、筋肉がスパズムを起こし、呼吸困難を起こす病気。成人は10年に1回接種が必要。もし外傷を受けた場合は、頻繁に接種する必要がある。小児時にDPTのシリーズを受けていない方(女性など)は、65歳以上でも3回の接種が必要。上記3種の予防接種は保険でカバーされることが多い。
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帯状疱疹
このワクチンは高価(150ドル)で保健でカバーされない。子供の頃になった水疱瘡のウイルスが体の中に残り、高齢になったりステロイド治療や放射線治療などをして免疫が落ちた時に出現する形が帯状疱疹である。ブツブツが出る3日前から痛みが出るのが特徴。高齢者の場合、ブツブツが消失しても痛みが続く場合が多い。これらを予防するためにこのワクチンが作られた。ゼラチン、ネオマイシンのアレルギーがある人、骨の癌、リンパ腫の患者は接種してはならない。
次に骨粗鬆症の予防の話であるが、運動、十分なカルシウム、十分なビタミンDが必要です。カルシウムは小魚等から摂取可能。ビタミンDは脂の多い魚に多い。カルシウムやビタミンDはサプリメントとして安価で売っている。毎日1500mgのカルシウム、800IUのビタミンDの摂取が勧められている。運動は、体重のかかるもの、簡単なウエイトトレーニングが良い。特に女性に必要である。
(2) 転倒防止法 (講師:伊藤康太医師)
65歳以上の高齢者で3人に1人が年1回転倒する。過去転倒歴で言えば3人に2人の割合となる。10%は病院に入院が必要となる。頭の出血や、大腿骨の骨折が生じることがある。大腿骨を骨折すると元通りの社会復帰は20%しかできない。残りは介助が必要となってしまうため転倒防止は非常に重要である。転ぶにはそれなりに理由がある。半分の転倒は未然に防止できると言われている。5つのポイントがある。
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日常生活に運動をとりいれる。いろんな運動があるが、しっかりとした歩行が重要である。1度転倒すると家に引きこもりがちになってしまう。転ぶのを恐れる人の歩き方は、下を見る、歩幅を小さくする、つま先を上げない。これが危険なのは前を見ていなかったり、つま先を上げないので、ひっかけやすいため。視線をまっすぐにして、胸を張る、つま先から強く地面をたたき、歩幅を大きくする事が良い。しっかり歩く事は筋肉や骨の強化につながる。次に重要なのは、バランスを鍛える事。太極拳やダンスなど全身が使われる運動が良いと言われている。家で10分くらいで出来る運動もある。 下肢の側方挙上も良い。ゆっくりと片足を6−12インチの高さ持ち上げ、8回から15回繰り返す。股関節の屈曲膝を胸の方へ折り曲げ、ゆっくりと下ろす。これも8回から15回行う。股関節の伸展。後方へ足を上げる。
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次に大事な事は、薬のレビューである。4種類以上服用していると転倒しやすいと言われている。かかりつけ医に相談して減らせるか検討する必要がある。
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3番目に大事な点は、血圧測定時は立っている時にも測定すること。立ちくらみが転倒の原因になっているので、立位でも測定すると良い。血圧高めの方に限って、立位での血圧がすとんと下がる例がある。
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4点目としては、年に1回の視力チェックである。ちょっとした視力の変化が転倒につながる事がある。
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5点目としては家での環境作りである。70%の転倒は家で普段の生活の中で発生している。床、階段、台所等ひとつずつチェックする必要がある。過去に転倒した経験のある方は、アラームシステムの導入を勧めたい。転ぶとワン・プッシュでEMS(911、救急隊)に繋がるシステムである。家で転倒した場合の50%が自力で立ち上がれないので発見が遅れてしまう事がある。このシステムは保険でカバーしていないケースも多いが検討に値する。月15ドルから25ドル程度の出費である。NASAの研究者の話として帰還した宇宙飛行士は転倒しやすいということであるが、これは、高齢者の転倒のメカニズムと似ている。これを解明する研究が進んでいる。