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当館では皆様のような在留邦人や観光客の日本人の皆様から、犯罪被害ということだけではなく、色々なお困りごと、トラブルなどのご相談を受けています。その数(援護件数)は、2008年には679件、昨年2009年は、669件ありました。週末も含めて毎日約2件新しい援護案件が発生していることとなり、全世界の大使館及び総領事館の中でも、大体トップ5に入る数となっております。では、どのようなケースが発生しているか内訳に関して簡単にご説明したいと思います。
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圧倒的に多いのは窃盗被害で、明らかに被害に遭ったと分かるものはもちろん、気がついたら紛失していたというケースも含めますと、2008年は全体の約46%、2009年は約40%を占めており、半数近い割合になっております。窃盗被害のほとんどは、スリと置き引きで、場所的にはホテルのロビーやレストランで多く発生しており、その他にも屋外や空港でも発生しています。よくあるケースをご紹介しますと、ホテルのロビーにあるソファーやレストランの座席に荷物を置いたまま席を外して、戻ってきたら荷物が置き引きされていたというケースが多くあります。多くの場合、ホテルのロビーとかフードコートがパブリックスペースであるという認識が低いため発生しているものです。 他には、バックパック形式の背中に背負う形のカバンに入れていた財布等が盗まれてしまうケースや、高級スーパーマーケットで買い物をしている際にスリに遭った被害もありました。
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次に多いケースとして詐欺被害があります。件数は窃盗被害に比べかなり少なくなりますが、2008年は13件、2009年は15件で、月に1件程度発生しています。有名な詐欺被害として、サングラス詐欺や白タク詐欺がありますが、サングラス詐欺は道を歩いている人の足下へ犯人が壊れたサングラスをわざと落とし、サングラスを壊したといって、弁償代として金銭を要求するものです。こういった詐欺があるという知識を持っていることがとても大切で、このような事件に巻き込まれた時は、毅然とした態度で無視をし、あまりしつこいようであれば、近くの警察官に助けを求めたり、お店があればそこに逃げ込んでもよいと思います。
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白タク詐欺に関しては、空港で発生しており、旅行者が飛行機から降りてきて、タクシーとかシャトルを探していると、犯人が巧みに近づいてきて、白タクに乗せ、降車時に法外な料金を要求するというものです。中には、事前に白タク被害のことを私どものホームページ等でご存知だったにもかかわらず、案内されている際に怪しいなと思いつつ乗ってしまったというケースもありました。怪しいと思ったら思いとどまる。基本的なところで、知らない人には安易についていかないということが大事かと思います。
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その他の犯罪被害としては、傷害・暴行被害が2008年には4件あり、2009年には増えて7件発生しております。当館の取り扱った中では、幸い殺害とか誘拐等の重大被害には遭った日本人のケースはありませんでした。
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犯罪被害以外のケースでどのようなものがあるか紹介しますと、精神障害事案、安否照会、その他生活相談等があります。件数を簡単に申しますと、精神障害は2008年に52件、2009年には43件あり、安否照会は、2008年には80件でしたが、2009年は141件あり、80%以上の増加率となりました。安否照会というのはどのようなものかと申しますと、多くがニューヨークに観光に来られたお子さんが到着後、全く親に連絡を取らないとか、留学をしているお子さんが、親にしばらく連絡を取らないため、親御さんが心配されて、何か事件に遭っていないかと不安になって安否の照会を当館へされるものです。今のところ、このような場合で実際に被害に遭っているケースはありません。
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その他生活相談については、2008年は100件、2009年には84件ありました。ご参考までに、具体的な生活相談としましては、最近の不景気を反映してか、職場での給料のトラブル、アパートの家賃のトラブルや、就職を世話して欲しい等の相談がありました。その他、アメリカでの生活における愚痴を淡々とこぼし続ける方もいて、当方としてはひたすら聞き役に回っているということもあります。
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ここまで、犯罪被害及びその他の援護案件に関してお話してきましたが、犯罪加害事案、つまり犯罪の加害者になってしまったケースもあり、2008年には10件、2009年には14件発生しています。内容は、軽犯罪、窃盗、交通違反の他、数は少ないですが傷害罪のケースもありました。犯罪被害に関連して、改訂版の「ニューヨーク安全マニュアル」を参照していただきたいのですが、今回、「法規・習慣等の違いによるトラブル等」を新しく追加しました。件数としては少ないのですが、「知らなかった」ということで、犯罪加害者になってしまうケースがあります。当館で実際取り扱ったケースを3種類ご紹介します。1番目は、「公共の場所における飲酒及び泥酔」です。アメリカでは公共の場所における飲酒が禁じられています。日本では、道端や公園で飲酒することが日常的に行われていますが、アメリカでは違反となります。また、その場で飲酒していなくても、公共の場所で泥酔して嘔吐したりしますと、これも酩酊罪ということで、違反となり、逮捕されることがあります。アメリカでは、公共の場所で酔っ払っているだけで犯罪となりますので、十分に注意していただきたいと思います。逮捕され、違反切符を切られて、総領事館に相談に来られた方が、何が起こったのかよく分からないということで、当方から状況を説明しますと、「そんなの知らなかった」ということがよくあります。「知らなかった」ということは理由になりませんので、気をつけていただきたいと思います。
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続いて、家庭内暴力と児童虐待等の虐待の加害者になってしまったケースをご紹介します。家庭内暴力では、夫が妻に暴力を振るい、妻が警察に通報して、夫が逮捕されたケースもありますが、大声で夫婦喧嘩をして、近所の住民が警察に通報して夫が逮捕されたケースがありました。このケースでは、夫婦間の口喧嘩ですので、2人ともまさか警察が介入してくるとは想像もせず、夫が警察官に逮捕された際にも、妻が泣いて「逮捕しないでください」とお願いしましたが、警察官は一切聞き入れず、結局連行されてしまいました。不用意に大声をあげたりしますと、思わぬ結果を招きかねませんので、十分ご注意いただきたいと思います。
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続いて、児童虐待に関連した「知らなかった」の典型的なケースが発生しておりますので、いくつかご紹介したいと思います。
- (イ)車内に子供を放置したケース
- 母親が買い物をするために、子供を車に乗せて買い物に行った際、店の前に路上駐車をして、15分ほど子供を一人で車内に残しました。そうしましたら、子供が寂しがって泣いてしまい、それを目撃した通行人がその場で警察に通報して、警察官が現場に急行して、母親がネグレクトという児童虐待として逮捕されたケースがありました。
- (ロ)屋外に子供を締め出したケース
- 子供が宿題をやらずにテレビゲームばかりしていたので、母親がしつけのつもりで、家のバルコニーに子供を出して、中から鍵を掛けました。母親はもちろん虐待の意思はなく、しつけのために行ったのですが、やはり、バルコニーで泣いている子供を目撃した通行人が警察に通報し、警察官が自宅に急行し、その場で母親が逮捕されました。
- (ハ)子供のお風呂上りの写真のケース
- 親が子供のお風呂上りの写真を撮影して、近くのファーマシーに現像に出したところ、店員が警察に通報し、親御さんが警察に逮捕されました。
いずれのケースも裁判が行われ、皆さん悪気はなかったのですが、関係者全員がつらい思いをされました。日本ではこんなの犯罪ではないとか知らなかったとか、そういうことは理由になりませんので、米国に滞在している以上は、当地の規則に従うことになります。私どもも引き続きこの件に関しては情報提供を続けていきたいと思っておりますが、皆様におかれましても、情報提供のご協力をお願いしたいと思います。
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パンデミックインフルエンザから、1年が経過したということで、振り返りの作業を行いたいと思います。今回使用する資料及び情報に関しては、厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部の資料から抜粋しておりますのでご参照ください。この話題に移る前に、当地のインフルエンザの状況を説明しますと、ニューヨークの方々は、ニューヨーク市の関係諸機関からの情報もあって上手く落ち着いて対処されていたと思います。日本は既に沈静化されているのですが、実は、今もパンデミックは続いています。現在、中米及び冬に移る南半球のほうが、第二波を迎えつつあると言われていますが、北半球側の状況を見て、それほど慌てて行動はしていないというのが現状です。米州では流行地域はなく、ニューハンプシャー州、バーモント州あたりが散発地域とされています。
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インフルエンザ関係の報道がいろいろとされており、日本では第二波がありませんでしたので、冬場にまた流行りだすのではないかとか言われておりますが、その根拠は特にありません。当初心配されておりましたH5N1インフルエンザに関してもまだくすぶっており、東南アジアのベトナムあたりではある程度起こっていますが、こういった強毒型がパンデミックを起こすかどうか、今のところは何も分かっていません。
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諸外国の状況としては、今のアメリカにおけるインフルエンザの流行分布は、流行値より少し下回っている状況になっています(図1参照)。印象として日本は新型インフルエンザの対策に失敗し、米国は成功したとよく言われているのですが、「重症度の各国比較」(図2参照)や「新型インフルエンザによる死亡率の各国比較」(図3参照)を参照すると結果は明らかで、日本は死亡率も感染率も非常に低く、結果は成功しているのですが、特に日本国内で対策に失敗したという印象が強く持たれています。米国は対策に失敗したとは言いませんが、日本ほど成功していないという状況にあります。このような印象の違いが発生してしまった原因の一つとして、リスクコミュニケーションと呼ばれているコミュニケーションが上手く行われておらず、正確な情報が上手く伝わっていなかったという反省点が挙がっています。
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一連のインフルエンザの報道は、衝撃的な映像や情報と共に、どちらかというと重要性の低い情報だけが広まり、実際の新型インフルエンザに関する対処法等の重要な情報が伝わっていなかった点が問題であったと思います。この件に関して、よく政府が批判を受けているのですが、厚生労働省はかなり早い時期で、全ての情報をホームページで公開していましたので、国側も報道関係者も自治体もコミュニケーションが上手く行われていなかったのが現状だと思います。しかし、現在これらの反省点を公にし、それを改善するため話し合いが行われていることは、よい傾向なのでご紹介させていただきました。
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目を当地の方に戻しますと、私どもでインフルエンザが流行していた頃は、オープンに質問等を受けつけておりました。多い時には1日20件という日もありましたが、月に平均40件の相談が寄せられました。日本での報道がされますと、こちらにも多く電話がかかってくるというような傾向にありました。質問内容としては、企業関係者からは、日本の本社から対策を命じられているが、現地の状況とのギャップがあるため、どのようにギャップを埋めればよいのかという質問が多かったです。個人の方からは、こちらの医療機関でインフルエンザと診断されても、家で休養するよう言われただけで、他に何も処置がなかった点に関してよく電話がありました。これに関しては、日本での医療の習慣の違いから発生しているのだと思いますが、日本も昔は感染を防ぐために、インフルエンザと診断を受けたら、家で休養するよう指示しておりました。しかし、7年ぐらい前からタミルフルですとかリレンザという薬ができたり、インフルエンザの抗体を調べることが即座にできるようになり、インフルエンザになったら病院に行くという対処に変わりました。その医療習慣が残っているので、日本人はインフルエンザになったら、病院にかかれるものだと、病院がウエルカムしてくれるのだと思っているのだと思います。そのような対処を行っているのは日本ぐらいであり、他の国ではインフルエンザといわれたら家でゆっくり休んでください、こういう症状が出て、重症化する兆しがある時だけ病院に来てくださいという説明を受けていると思います。その程度の質問で終わっておりましたので、概ねこちらの方は米国の情報で上手く対処されていたのだなという印象を持っております。
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医療コミュニケーションという意味では、事実ですとか、しっかりとした正確な情報を、的確な対象に的確に届けるのがとても重要であり、そう意味では、こういった会議の集まりは非常によいと思います。それを、丁度パンデミックが起こった時期に去年も行えておりましたので、皆様方の協力に感謝する次第です。