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〜 炭疽菌への対処 /テロに踊らされない〜

(この資料は、2001年10月26日に総領事館内において実施された専門家による講演の要旨および配布資料を、講師のご了解を得て掲載しているものです。)

  • 日時: 平成13年10月26日(金)17:30〜
  • 場所: 在ニューヨーク日本国総領事館
講師: 
岩田 健太郎 : ベスイスラエル医療センター 感染症科医師
深川 正明  : 在ニューヨーク日本国総領事館医務官

講演要旨

今回の炭疽菌による細菌テロする対応も、基本はテロ全般や危機状況下での取り組みと同じです。どうすれば最も効率的に危険を回避するできるかが目的となります。このことは”危機管理”の手法に基づいて考えれば理解しやすくなります。

危機管理の例として、航空機ハイジャック予防における搭乗前乗客検査を例に取り説明します。全く何の検査もなく航空機を運航すれば、テロは頻繁に起こります。金属探知機使ったりその他をチェックすればかなり減らすことが出来ます。また、乗客一人一人を裸にして検査すれば殆どなくなりますが、乗客は大きな不都合・苦痛を課せられることになります。また、ハイジャックの危険性がない処では何の検査も必要ないし、危険性が高いと飛行機の運航自体を取りやめることにもなります。何の対策をもとらないと危険にそのまま晒されることになり、対応を厳しくし過ぎると日常生活そのものが営めなくなります。いずれにしても好ましいことではありません。また、対応はその状況の危険度に応じて異なります。

この例から判るように、危険度と対応の効果・弊害を考慮してその時点での対策をとることが危機管理です。つまり、自分の置かれた状況=危険度を正確に判断し、その状況に応じて最も効率的な手段を選択します。どの程度が適当かの見極めが重要です。状況の判断には、絶えず最新の情報を取り込むことが必要です。対応自体も、一定ではなく刻々と変化します。

これを細菌テロに置き換えると、テロに遭遇する危険性(どの集団に属し、どの程度狙われているか)によって対応は全く異なってきます。現時点では最も炭疽菌にさらされやすい集団としてはマスメデイア関係、郵便局勤務、政府関係者等が考えられています。これらのいずれにも属さない一般の日本人はそれほど神経質になる必要はありません。人それぞれ、その状況によって危険度は異なるのです。炭疽菌暴露疑いの場合でも、医師を受診するか、予防内服を行う必要があるかは個々の置かれた状況によって判断が変わります。例えば炭疽菌入りの郵便が日本人に届く可能性は低くなり、"白い粉"が入っていたとしても炭疽菌である確率はほぼありません。よって対応としての予防内服をする必要もなくなる訳です。繰り返しますが、状況は常に変化します、且つ対応もまた変化します。上記の日本人での対応例も、それに従って変化することを忘れないで下さい。

ニューヨーク市の取り組みでは、NBCで職員が皮膚炭疽症を発症したその日にジュリアーニ市長は市内の著名な感染症科専門家を招き、特別対策団を組織し行政側への意見具申を行うべく要請しました。すでに市保健局(NYCDOH)が問題の対策にあたっていましたが、行政と臨床の専門家が協力することで、より迅速かつ効果的に問題の対応にあたろうとしたわけです。

この責任者がベスイスラエルメディカルセンター内科部長のスティーブン・バウム教授であり、その他メモリアルスローンケタリング病院(SKMCC)、ニューヨーク大学医学部(NYU)などの市内の医療機関より選抜されています。1999年のウエストナイル脳炎流行に際しても、NYCDOHの対応は迅速であり、今回もNYCDOHが中心となり的確な対応が行われています。

炭疽菌は、米国疾病管理センター(CDC)がカテゴリーAと呼ぶグループに入れられており、最もテロに使われやすいものとなっています。その理由は、比較的安価に入手可能で管理も簡単、発症すると致死性が高いことが挙げられます。但し、これは吸入炭疽症を狙った空中散布による集団大量感染を想定しており、手紙による感染の可能性は大変低い。実際の細菌としての効果よりも人々の恐怖心をあおる目的の方が大きいと考えられます。

刻々と変化する情報に応じて医療体制側の対策も変わっています。“正確かつ迅速に情報を獲得することがまず一番の対策である”といえます。常時テレビ・ラジオや新聞の報道に注意しておくことが大切です。

繰り返しますが、自分の置かれた状況=危険度を正確に判断し、その状況に応じて最も効率的な手段を選択することが重要です。自分の立場が理解出来ず、必要以上の処置や対応をとり、日常生活が著しく制限されること、それがテロに踊らされることです。

質問集

Q1.封筒を開封したら白い粉が出てきたとします。まずどうすればいいのでしょうか?
@ まず、落ち着くようにと自分に言い聞かせます。
A こぼれたり、服に付いた粉には手を触れてはいけません。服は叩かないように
B 封筒をそのままプラスチックパック等の密閉出来るものの中に入れます。
C 部屋の空調や扇風機を止めます。
D 封筒をはじめ、その回りのものもそのままに置いたままで部屋をでます。
E 部屋の出の入口を閉め、誰も入室しないようにします。
F 手を流水と石鹸でよく洗います。        ′
G 着替えがあれば服も着替えます。脱いだ服もプラスチックバッグに密閉します。
H 警察に連絡します。
I 警察が来るまで待ち、後はこの指示に従います。
J 粉が残っている場合は、この粉で菌を検査すればよく、人での検査は必要ではありません。粉が残っていなく、又開封時に飛び散ったりして吸い込んだ可能性が高い場合は鼻腔より菌の培養を試みます。この場合医療機関を受診することになります。
K 予防薬の内服は、粉の吸引の可能性により判断されます。医師の判断にまかせましょう。予防内服を開始した場合、粉の検査結果が菌陰性と判明した時点で当然のことですが内服は中止となります。
怪しいものは白い粉とは限りません。
Q2.白い粉が検査に提出された後、どれくらいで結果が判明するのですか?
ニューヨーク市で、これら"白い粉"より炭疽菌を検出するのに現在行われている検査は、細菌培養です。 結果が判明するには、24から48時間は必要です。もっと早く菌の有無を調べる方法もあるのですが、通常は行われていません。(検査の項参照)
Q3.職場で炭疽菌への暴露・感染が起こったことが確認されたらどうしたらいいでしょうか?
まずはその職場の指示に従ってください。直接暴露(菌に晒されること)を受けた場合、体全身を、石鹸で十二分に洗い流します。医療機関を受診し、医師より予防的抗生剤を処方されることになります。抗生剤は60日間飲み続けます。直接暴露を受けていない方のほとんどは、予防内服の必要はありません。家に帰っても家族にうつすことはありません。
Q4."シプロ"以外には薬は効かないのですか?
本当は他にも有効な抗生剤はたくさん存在します。ペニシリン、ドキシサイクリン、レポフロキサシンなどは有効だとされていますし、エリスロマイシン、バンコマイシン、セフロキシムなどにも効果が確認されています。したがって、シプロー剤にこだわる必要はなく、薬の在庫がない・インターネットで入手できるという情報に踊らさられてはいけません。CDC(米国疾患治療予防センター)がシプロを指定している根拠は、1966年に旧ソ連がペニシリンとテトラサイクリン耐性の炭疽菌を開発したという報告によります。そこで万一テロリストがこの菌を入手して使用した場合を想定して、耐性菌の報告がない“シプロ”となったわけです。現在米国で見つかった炭疽菌はいずれも耐性菌ではなく、多くの抗生剤が有効であることがわかっています。

Q5.予防内服の薬は安全でしょうか?
暴露後予防として、シプロフロキサシン若しくはドキシサイクリンが処方されることになります。副作用をよく理解しておくことは大事なことです。シプロは腹痛下痢を起こしたり、めまいや気分の変調をおこすことがあります。ドキシサイクリンは光の刺激に対して過敏反応(日光皮膚炎)を起こすことがあります。また、常用している薬のある方は、その薬品名(商品名だけでなく)と投与量(何粒だけではなく、何ミリグラムか)とをご自分で正確に把握しておくことが必要です。薬によってはシプロやドキシサイクリンと相互作用を起こすものがあります。
妊婦・授乳中の方が、抗生剤を含め薬を服用する際には特別な注意が必要です。妊婦・授乳中の方は手紙の扱いなどの業務から暫くはずすのが賢明でしょう。
自己判断にて服用の開始及び中断は危険です。医師を受診して下さい。
Q6.炭疽菌が発見された会社と同じビルに勤務しています。ビルの管理会社や事務所からは安全だと言われているが、炭疽菌の予防薬が欲しい。
空調が別であれば、菌が別の部屋まで入ってくることはありません。菌が入ってきて いないのであれば検査をする必要はありません。仮に空調を通して入ってきていたとしても、また散布された場所でさえも、菌は空気中にそのまま浮遊し続けることは無く、しばらくたつと地面に落ちてしまいます。一度地面に落ちた菌が、もう一度舞上がりこれを吸 入して感染することは無いとされています。
菌が撒かれた当日にその場にいなかった人はまず菌を吸い込んでいることは無く、検査の必要はありません。当然抗生剤も不要です。
現在炭疽菌が発見された建物は政府によって除菌が行われ、人に感染する危険がなくなるまで床や空調を洗浄されます.政府の出す情報や指示をよく聞いてください。
Q7.隣の人は郵便局に勤務していて、検査を受けたらしい。同じアパートに住んでいてなんだか,怖い。炭疽菌の検査を受けたい。
炭疽菌の検査は必要ありません。隣人が炭疽病を発症したとしても、同じアパートに住んでいるからといって感染が起こることはありません。炭疽菌は人から人への感染は起こしません。例外として皮膚炭疽の場合、菌が存在する皮層の病巣に直接接触すると感染は起こり得ますが、明らかに感染性のある皮膚の炭疽症の人はすでに入院しているでしょうから、可能性はかなり低いと言えましょう
また炭疽菌の検査といってもいくつかの方法が有り、感染経路や症状によってそれぞれの検査結果の意義が異なります。状況によって適切な方法を選択し、解釈されなければ誤った結論を導くことにさえなります。(炭疽菌感染の検査の項参照)
Q8.3日前より風邪の症状。炭疽菌の感染が心配。
菌が撒かれた建物・又その可能性の高い場所(狙われやすい場所参照)にいましたか?そうでなければ炭疽菌感染の可能性は極めて低くなります。細菌テロ及び疑いの発生状況については常に情報に注意していて下さい。 万一あなたが菌の撒かれたとわかっている場所にいた場合、なおかつのどの痛み、熱、咳などインフルエンザのような症状が出た場合は、直ちに医師を受診して下さい。さらにそれがいったん数日後よくなってまたぶり返した場合は吸入炭疽の可能姓があります。 これからは風邪・インフルエンザの季節が到来してきます。症状からはこれらの病気と初期の肺炭疽とは区別できません。風邪・インフルエンザの予防が、引いては炭疽菌感染の心配を軽減することにもなります。無理をしない生活、外出から帰ったときの手洗い・うがいの励行、インフルエンザ予防接種とにて、インフルエンザを予防しましょう。
特に、50歳以上の方、慢性疾患をお持ちの方は是非この機会にインフルエンザワクチン接種を受けて下さい。

Q9.炭疽菌の血液検査を受けたい。
症状が無い人では検査の診断価値はありません。(抗体検査の項参照)
Q10.兎に角、なんとしても検査を受けたい。どこで受けられますか。
最寄の救急外来にてその旨希望を伝えて下さい。詳しい状況の説明を求められ、担当医が必要と判断したら検査を受けられるかもしれません。
Q11.英語で米国人の医師に状況を説明する自信がありません。私の言うことをちゃんと聴いてくれる医師を紹介して欲しい。
ニューヨークには多数の日本人医師が診療を行っています。この日本人医師に相談されたらいいでしょう。日本語のニューヨーク生活案内が多数刊行されており、日本人医師の案内も掲載されています。
東京海上記念診療所桑間医師か、ベスイスラエル医療センター感染症科岩田医師に予約を取られたらいかがでしょう。
Q12.会社の空調機に菌がどこからか入り込んではいないか調べたい。
菌が撒かれていたら既に症状が出てきていても良いし、発症者が誰もいないのであれば撒かれた可能性はほぼないでしょう。逆に撒かれた可能性が高いときは、まだ症状の出る前の時期である可能性もあり、空調機から菌が発見されなくても予防内服を開始した方がいいでしょう。どちらにしても検査する意味はないと思われます。
Q13.建物で炭疽菌が発見された場合、どのくらいの期間菌は残っているものですか?
主な感染源は政府機関が洗浄します。完全に除菌する必要はありません。もともと土の中にいる菌ですから。感染能力がなくなるまで量を減らしてやれば充分です。空中に漂っている菌は一般に24時間で床に落ち、肺炭疽の危険はほぼなくなります。手紙に入れられた量程度の炭疽菌ならビルの空調からもれ出ても周りに感染を起こすことはほとんどないことはすでに述べました。

Q14.感染している人としていない人とはどう違うのですか?
感染者は比較的大量の菌にさらされています。吸入炭疽症の場合、最低でも何百という菌を吸い込まなければ、感染はおこらず症状がでることはありません。鼻に菌がついていることと即ち吸入炭疽ではありません。(炭疽菌感染の項参照)
Q15.なぜ炭疽菌なのですか?
炭疽菌は米国疾病管理センター(CDC)がカテゴリーAと呼ぶグループに入れられます。もっともテロに使われやすいという意味です。その理由は比較的安価に入手、管理できること、感染症を起こすと致死性が高いこと、などが理由とされています。ただしこれは吸入炭疽症を狙った空中散布を想定しており、手紙による感染の可能性は大変低いと考えられます。実際の細菌としての効果よりも人々の恐怖をあおる目的のほうが大きいのではないか、という考えはここからきています。
Q16.今回の炭疽菌は毒性が強いというのは本当ですか?
本当ではありません。一部の報道機関が発表した、「毒性の強い炭疽菌」というのは誤報で、自然界に存在するものとなんら変わりないことが判明しています。治療方法も変わりません。
Q17.炭疽菌以外の感染症は?
CDCが他にカテゴリーAに指定している感染症には天然痘、ペスト、野兎(やとう)病、ボツリヌス毒素、出血性熱症候群があります。天然痘ウイルスと出血性熱症候群を起こすウイルスは管理が大変困難なため、テロに実際に使用される可能性は低いと考えますが、万一近辺で感染者が発症した場合は落ち着いてニュースなどの発表に注意するようにしてください。そのつど医師の指示を仰ぐのが適切だと考えます。ペスト、野兎病には治療薬が存在します。どちらも発熱、リンパ節の腫れ、呼吸苦や咳を起こし、その点炭疽症に似ています。野兎病は人から人に感染することはほとんどないと考えられています。ペストについては隔離が必要です。いずれもニュースで感染者の存在が判明したら、すみやかに健康局の指示に従ってください。必要とあらば、医師に相談してください。
Q18.日本人は狙われるのでしょうか?
現在のところ菌にさらされやすいと考えられるのは以下のグループです。
マスメディア、郵便職員、政府関係者
ほとんどの日本人はこのいずれにも属さないので、狙われる可能性は極めて低いと考えられます。
Q19.電子レンジを使うと、開封しなくとも手紙の中まで殺菌できると聞いたのですが。
電子レンジの効果はあるということは確認されていますが、いったい何分間レンジにかけるのか、何%信頼のおける率で殺菌できるのかについては一定した意見がありません。市や連邦政府のガイドラインにも電子レンジの使用には触れられていません。これからさらに簡便な手紙用殺菌装置が開発され、実用に護る可能性もありますが、現在のところ手紙をレンジにかけるのはお勧めしません。

I  病気の起こり方

炭疽菌による感染は、菌が体に侵入してくる経路より次の3つの型を取ります。
1)皮膚炭疽:
皮膚表面に付着した菌が、傷やささくれより皮下に侵入し感染する。
2)吸入炭疽病:
 (肺炭疽)
空気中に漂っている菌を吸い込んで肺に感染する。
3)消化器炭疽病:
 (腸炭疽)
菌を大量に飲み込んでのどや腸に感染する。
 

U 菌の性質と感染

炭疽菌は、芽胞と栄養型の二つの形態を取ります。芽胞は、環境の変化に強い耐久型であり土の中などで何年も生き続けることができます。芽胞そのものが増殖することはなく、いわば冬眠中といえます。菌にとって快適な環境となると芽胞は栄養型に変化し増殖を開始します。栄養型は普通に菌(例えば大腸菌などが)が増殖する状態です。環境が厳しくなると再び芽胞に戻りまた冬眠に入っていきます。
 人や動物の体内は菌にとっては快適な環境であり、芽胞は、肺や皮下などに入り込むと栄養型に転じて増殖を開始します。これが感染です。菌は幾つかの毒素を産出しつつ増殖します。炭疽病の症状は、菌が体の中で増えること自体より、この産出された毒素によって引き起こされるものです。


V 炭疽菌感染の検査

上記の病気の起こり方と菌の性質とを考えあわせると、以下のことも理解しやすくなります。

1)菌が見つかることと、感染していることは違います。

皮膚の表面や鼻の中より芽胞が発見されても、菌が存在したとことにはなりますが、感染がおこっているとは判断できません。また、逆に皮膚表面や鼻腔より芽胞が発見されなくても、肺まで吸い込まれた芽胞がそこで増殖を開始すると感染(吸入炭疽)が起こります。しかし、吸入炭疽の場合には、かなりの数、数千から数万個の芽胞を吸い込まなければ発症しません。

2)炭疽菌自体を見つけるのにはいくつかの方法が有ります。

@ 菌を直接検出する。

菌を染色し(グラム染色)、直接顕微鏡でみる。炭痕菌かどうかの見当をつけることが出来ます。炭疽菌と確定するためには、これに加えて培養が必要です。染色だけでは数十分で可能で難しくない検査ですが、多数の検体を処理するには頻雑であり、通常は行われていません。

炭疽菌にだけにくっつく抗体を用いる。この抗体が光る(蛍光)ことで菌を見つけます(直接蛍光抗体法)。特定の検査所のみで行われています。

A 菌の遺伝子を検出する。

菌の遺伝子-DNAが検出されれば、菌が存在した証拠となります(PCR法)。理論的には菌の数が一個でも検出できる程の鋭敏度の高いものですが、他からちょっとでも紛れ込んだりしても陽性となります。DNAが検出されたとしても、菌は既に全部死んだ後かも知れません。現在のところ米国内ではこの検査が出来る施設は数ヶ所に限られており、確定診断に用いられているに過ぎません。

B 菌を産出する毒素を検出する。

菌が産出する毒素に対する抗体を用いてこの毒素を検出します(ELISA法)。特定の検査所のみで行われています。

C 菌を培養する。

芽胞は適当な環境になると栄養型になり増殖します。菌を増殖させるのを培養と呼びます。24-48時間必要です。培養したあとは、薬の感受性検査等も行います。

3)炭疽菌に対する抗体を検出する。

外部から異物が入り込んだ場合、体は抗体を作りだしてこれと戦おうとします。

炭疽菌に感染し、菌が体内で増殖・毒素を産出した場合、これらに対する抗体が作られます。毒素を感知して抗体を作り始めるまで数日が必要であり、抗体陽性になるまでは感染後一定の期間が必要です。よって炭疽菌に晒されたその日に試験をしても陽性にはなりません。また、菌が体内で増殖・毒素を出していると、これらによる症状もでているわけですから、無症状の人での抗体検査は診断意味がありません。

どの検査を行うかは医師が判断します。それぞれの患者の状況に応じて、適切な検査が選択されることになります。

  


W 細菌テロへの使われ方

炭疽菌感染の三つの病型の中では、吸入炭疽(肺炭疽)が最も重篤であり、細菌テロの目的となっています。菌自体を培養し増やすのは難しくないようですが、肺に吸い込まれ易いように菌の塊を小さく一定の大きさにするには高等技術が必要とされており、その上実際の散布にあたってもうまく風に乗せるか上空より撒かなければなりません。また、吸入炭疽を発症させるには比較的多量の菌が必要です。

現在のニューヨークの警戒態勢では、多量に菌を散布することは現実的ではなく、炭疽菌による大規模細菌テロの可能性は極めて小さいと言っていいでしょう。

また一旦感染が起こったとしても人から人への肺炭疽の感染は起こりません。菌に触って起こるとしたら皮層炭疽病ですが、皮層炭疽は治療をしないままに放置しなければ重症になったり死亡することなどはありません。消化器炭疽(腸炭疽)は希であり、炭疽病に感染した動物の肉を食べるような大量の菌を飲み込まない限り発病することはないようです。  


V 炭疽菌暴露後の対応

この様な細菌テロが一旦発生した時に、最も対応が困難なこと、言い換えれば最も被害を防ぐに重要なことは、如何に早期に診断、つまり原因を突き止めるかです。

現在、医師を始めとしてニューヨークの誰もが細菌テロのことを念頭に置いている状況では、万が一炭疽菌が散布されても直ちに対応が取れる体制になっており、被害は最小限に押さえられるでしょう。

炭痕菌を一旦吸い込んだときの予防には、効果のある抗生剤があります。シプロフロキサシン(シプロ)とドキシサイクリン(ビブラマイシン)がこれに当たり、現在ニューヨーク市民が全員飲めるだけの量が既に蓄えてあります。

皮膚に炭疽菌が付着しても、吸い込んだ可能性がない場合は、皮層感染(皮膚炭疽)の予防目的に抗生剤内服を行うことはありません。まず石鹸で洗い流すが先決です。

炭疽菌を吸い込んでもいないのに抗生剤を飲んでいても、当たり前のことですが何の効果もありません。むしろ副作用が怖いだけです。

  

Y 細菌・化学兵器テロへの一般的注意

炭疽菌以外の細菌テロでも、又サリン等のガスでも、人の多く集まっているところに撒くのが被害は大きくなります。つまり、予防を心がけるには人の集まるところにはあまり近づかなというのが基本となるでしょう。いつも情報を絶やさず、何かおかしいと思ったらさっさと避けましょう。  

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