ヘルスウィークにおける「花粉症 アレルギーのお話」講演会
2008年6月25日
- 1.日時:5月24日11時00分~12時00分
- 2.講師:仲本光一
- 在ニューヨーク日本国総領事館 医務官
- 3.概要
アレルギー allergy とは?
- ギリシャ語のallos(変化した)と、ergo(作用)を一緒にした言葉で、”変化した反応能力”を意味する。1906年Pirquetが提唱した免疫と過敏症を包括する概念であったが、現在では過敏症のみを指すようになった。
- 免疫反応により引き起こされた生体の全身性ないし局所性の障害
- 免疫反応とは、外来の微生物や異物などを非自己として認識することにより排除し、自己の恒常性を維持しようとする生体反応
- 免疫反応の過剰がアレルギー、不全が免疫不全、異常が自己免疫疾患
- 体質があり、遺伝が関与している
花粉症 Pollinosis, hay fever
- 植物の花粉をアレルゲン(抗原)として起こる季節性アレルギー性鼻炎、結膜炎、喘息など。
- 花粉の付着した部位により、鼻、眼結膜、咽喉頭、気道の症状が出現。
- くしゃみ、水性鼻水、鼻閉、眼のかゆみ、流涙、羞明、外耳道のかゆみ、咽頭のかゆみ、耳閉塞感。咳、花粉喘息。全身倦怠、熱感、寒気、頭痛、めまい。
花粉症の原因物質
スギ(ceder)(スギ科) | 2~4月 | 山地に自生、植林 |
カマガヤ、ナガハグサ(Kentucky bluegrass)、オオアワガエリ(イネ科) | 4~6月 | 牧草、緑化工業 |
ブタクサ(ragweed)、オオブタクサ、ヨモギ(mugwort )(キク科) | 8~9月 | 荒地、ヨモギは草地 |
カナムグラ(クワ科) | 9~10月 | 野原、荒地 |
シラカンバ(betula)(カバノキ科) | 5~6月 | 北海道 |
温室イチゴ、モモ、リンゴ | 3~4月 | 栽培従事者に発生 |
oak(オーク), elm(ニレ), birch(カバノキ), maple(カエデ), ash(セイヨウトネリコ), alder(ハンノキ), hazel(ハシバミ),chenopod(アカザ),sage(サルビア) | 2~4月 南部では1月~ 北部では4月~ |
花粉症の予防
- アレルゲンを避ける
- 外出を控える。花粉は朝5時から10時が危険
- 外出時にはめがね、マスク。毛羽立った服は避ける。屋内に入る時はコートなどをはたく
- 窓の開閉は最小限
- フィルター付きエアコンを使用する。
- 洗眼、洗顔、うがい、鼻かみで花粉を除去
- 早めに薬を内服する
花粉症の検査、治療
- 検査
- 鼻汁中好酸球検査
- 皮膚テスト
- 血清特異的IgE抗体検査
- 治療
- 抗アレルギー薬
治療法は重症度により異なる(鼻漏型、鼻閉型) - 初期療法:症状発現前から
- 減感作療法(免疫療法)hyposensitization, immunotherapy
- 抗アレルギー薬
食べ物アレルギー
- 食べた物が原因のアレルギー
- 乳児10%、3歳児4~5%、学童期2~3%、成人1~2%。
- 幼児や小児:卵や牛乳、小麦、大豆、ピーナッツ
- 成人:小麦、魚類、甲殻類(カニやエビなど)、ソバ、果物
食物アレルギー、治療法
- 食物除去療法
- 牛乳→加水分解乳・アミノ酸入り、専用ミルク
- クリームシチュー→コンソメチキンスープ
- カレーライス→手作りカレー
- 薬物療法
- 補助的に坑アレルギー薬の内服
- スキンケア
- 皮膚炎を合併している場合
- 学校での対策、アナフィラキシーの対策
- 乳児で の発生の8割は軽快
- トピック:経口免疫寛容の推進?!
アナフィラキシー・ショック anaphylactic shock
- アナフィラキシーとはある原因物質により引き起こされる急性で全身性の即時型アレルギー反応のこと。その中で著明な血圧低下により意識障害を伴うものをアナフィラキシー・ショックといい、死に至る可能性が高い。
- 原因物質としては、薬物、食物、ハチ毒が多い。
- 食物では、牛乳、卵、大豆、ピーナッツ
- 日本では年間死亡者約50~60名。ハチ刺傷では20名、薬物では10~20名、食物では数名。
アナフィラキシーの症状
- 皮膚症状(90%)
- 蕁麻疹、血管浮腫(85~90%)
- 皮膚紅潮(45~55%)
- 発疹のない痒み(2~5%)
- 呼吸器症状(40~60%)
- 呼吸困難、喘鳴(45~50%)
- 喉頭浮腫(50~60%)
- 鼻炎(12~20%)
- 血圧低下(めまい、失神、血圧低下)(30~35%)
- 腹部症状
- 嘔気、下痢、腹痛(25~30%)
- その他
- 頭痛(5~8%)
- 胸痛(4~6%)
アナフィラキシーの予防、治療
- アレルゲンの回避
- 最も有効かつ基本的な方法は、原因となるアレルゲンを避けること。特定の食物や薬物に対してアレルギーのある患者さんは、それらを摂取あるいは服用することのないよう注意が必要。ハチ毒に対してアレルギーであることがわかっている場合は、ハチのいる可能性のある場所にはなるべく近づかない、肌を露出しない等の対策が必要。
- 薬
- アナフィラキシーでは、症状の発現を速やかに察知し、一刻も早く治療を開始。医療機関では症状を緩和する目的で救急用として、エピネフリンを使用。(特にアナフィラキシーショックを引き起こしている時) エピネフリンは、気管支や血管に働いて呼吸困難や血圧低下等のアナフィラキシー症状を改善する。また、肥満細胞や好塩基球からのケミカルメディエーターの放出(脱顆粒)を抑える働きがある。エピペンの自己注射
アトピー性皮膚炎atopic dermatitis
- かゆみを伴う発疹が繰り返し出現
- 発疹は顔や首、肘や膝のくぼみに多く、ひどくなると全身に広がる
- 80%の患者さんは5歳までに症状出現
- アトピー体質という遺伝的要素が関連
- 気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎などにかかりやすい傾向
- 近年増加。3人に一人が何らかのアレルギー性疾患に罹患
日常生活での注意
- スキンケア
- 部屋を清潔にする
- ダニやホコリ、カビはアトピー性皮膚炎を悪化させることがあるので、できるだけこまめに掃除を。布団もできるだけ干すように心がける。
- 服を選ぶ
- 衣類は肌触りのよいものを選ぶ。特に下着は木綿製品が良い。買いたての下着は着ける前に一度洗うことがおすすめ。洗濯をする場合はよくすすいで洗剤が衣類に残らないようにすることも大事。
- ストレスを減らす
- イライラすると症状が悪化することがあるので、ストレスにも注意する。親御さんがアトピー性皮膚炎に神経質になりすぎることが、かえって子どもに悪影響を与えているケースもある。病気にこだわりすぎず、元気でのびのびとした子に育てることが、軽快への一番の近道。
- バランスの良い食事
- 健康に近い皮膚のバリアをつくるためには、バランスのよい食事や規則正しい生活が必要。子どもの発育、成長に影響するような隔った食事は控えましょう。
スキンケアのポイント
- 皮膚の清潔(手を使ってそっと洗う)
- 発汗が著しい場合以外は2-3日に一度シャワー
- 汗や汚れは速やかにおとす、しかし強くこすらない
- 石鹸・シャンプーを使用する時は洗浄力の強いものは避ける
- 石鹸・シャンプーは残らないように十分すすぐ
- かゆみを生じるほどの高い温度の湯は避ける
- 入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける
- 入浴後には、必要に応じて適切なぬり薬を使用する
- 皮膚の保湿
- 入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を使用する
- 患者さんごとに使用感のよい保湿剤を選択する
- 軽い皮膚炎は保湿剤のみで改善
- その他
- 爪を短く切り、なるべく掻かないようにする
ステロイド外用剤の使い方
- 適切な強さのステロイド外用剤を1日3回
- 風呂上りに直ぐ。すりこまず、薄皮一枚覆うように
- 改善しなければ、原因を追究。強さ、塗り方。
- 爪は頻繁に切る。
皮膚がきれいになったら徐々にストロイドのレベルを下げていき、最終的には保湿剤だけでコントロールする。
ステップダウンはあわてない。医師と相談しながら。
アトピー性皮膚炎の自然経過
- 4割の人は生後6ヶ月までに発病。少なくとも7割の人は2才までには発病する。
- 生まれて1ヶ月から3ヶ月頃に生じる顔面の湿疹の一部のものはアトピー性皮膚炎の事もあるが、脂漏性湿疹や接触性皮膚炎、汗もなど他の湿疹もある。この頃の湿疹をアトピー性皮膚炎と診断するのは難しい。
- アトピー性皮膚炎はある程度治療を続けながら経過を見ていくと徐々に再発しなくなり、ついには消失して治っていく。小学校入学時には3人に1人の割 で軽快し10才くらいには半分、16才頃には90%が軽快する。しかしその反面、あとの10%は大人にまで持ち越してしまう。
喘息について
- 慢性的な気管支の炎症
- 毎年6000人が死亡(日本)
- 小児喘息の9割はアレルギー性
- アレルゲン:ハウスダスト、ダニ、花粉、動物の毛
- 成人喘息の半分は非アレルギー性
- 外界からの刺激:タバコの煙、香水などの強い匂い、風邪などのウイルス、気温・湿度の急激な変化
喘息の治療
- 発作の誘因を遠ざける
- ダニなどアレルギー対策
- 風邪などのウイルス感染防止
- 運動誘発喘息の防止
- 禁酒、禁煙
- ストレスを減らす
- 薬による治療
- 吸入ステロイド
- 経口ステロイド
- 坑アレルギー薬
- 気管支拡張薬
アレルギー・マーチとは
- アトピー素因のある人に、アレルギー性疾患が次から次へと発症してくる様子。乳児期に牛乳、卵などの摂取により皮膚症状(湿疹やアトビー性皮膚炎)や消化器症状(下痢、腹痛、便秘など)がおこり、生後6カ月頃になると喘鳴、1~2歳に なると呼吸困難も加わって気管支喘息発作をおこすようになる。この時期から食物抗原にかわってハウスダストなど吸入性抗原への感作が増加。
- 気管支喘息の一部は7~8歳で治るが、大部分は学齢期まで持ち越し、約70%が14~15歳までに治る。残りは成人型気管支喘息に移行するが、この間アレルギー性鼻炎が発症したり、蕁麻疹を経験することもある。
- 基礎にアレルギー素因があり、母親の体内で卵や牛乳のタンパク質によって、アレルギー反応を既に起こしていて、それが生まれてから乳児湿疹などの症状として現れてくる。