日時:2006年11月9日(木)午後16時00分~18時30分
場所:総領事館19階会議場
参加者人数:41名
会議進行:仲本医務官
主テーマ:「9.11を振り返って」
挨拶と経緯
第1回会合は本年1月12日、第2回会合は本年4月20日に当館で開催された。第3回は、日系人会で取り組んでいる「高齢者問題」へリソース作りが行われた。今回の会合では「9.11を振り返って」として、当時医療・メンタルヘルス系のグループが邦人支援をどのように行ったかについて振り返り、今後の取り組みに対する参考とする。また、緊急事態に備えたメンタルヘルス カウンセラーのリスト作りも提案された。また、広報文化班から来年6月に開催予定の「Japan
Day@セントラルパーク」に紹介が行われ、当ネットワークの参加が議論された。
会議の概要
- 仲本から会議の開始に際し、前回の提言を受け、高齢者に対するサービスを行っている情報・リストを作成し、既に当館ホームページに掲載した事の紹介があった。本間教授より、この会合が既に4回目となり着実に活動が進んでいる事、また前回の指摘を受け、米国日本人会のホームページにメディケアを受け付けている医師のリストをHP上に掲載した事が紹介された。また、医療においては肉体面と同時に精神面が重要なテーマであるが、9.11については特にメンタルヘルスが大きな問題となっており、この点についてジャムズネットで話し合いが行われる事は有意義であるとの発言がなされた。次に佐藤首席より、今回のテーマである9.11は、実際に当地で経験した者が既にいない事もあり、現館員にとってたいへん有益な内容である。当時総領事館は十分な対応が出来なかったとの反省があり、現在も改善を行っているところではあるが、今回現場で実際に活動をされた方からの意見を聞き、今後の参考にさせていただきたい、との発言がなされた。次に、各出席者の紹介が行われた。今回は、ジャムズネットのメンバーに加え、個人で開業を行っているメンタルヘルス・カウンセラーが7名参加した。
- 「9.11を振り返って」というテーマで各グループから発表が行われた。
- 総領事館の対応については近江領事が説明を行なった。9.11発生時に邦人支援を担当した前任者の記録を元に、総領事館がいかなる活動を行ったかについて、主として医療的観点から発表
がなされた。9月11日10時に現場確認のために館員が派遣され、全館非常事態体制が構築さ
れた。在留邦人からの問い合わせ対応、情報入手活動が行われ、当日は深夜に安否確認作業のた
め近隣病院への問い合わせ作業を行った。12日には被害を受けた来訪者の支援(宿泊所提供、銭的援助など)を行い、病院やニューヨーク市当局を訪問し、各種情報入手に努めた。12日
の深夜までには、日本人行方不明者の氏名が判明した。16日には緊急対策本部をヒルトンホテ
ル地下に設置した。メンタルヘルスの支援としては本省から派遣された医務官が被災者家族への
個別訪問、学校等における講演を行なった。また中長期的対応として、9月17日から10月末
まで、当地の民間団体(精神科医、カウンセラー、ボランティア10名)と協力し心のホットラ
インを開設し、電話カウンセリングを行った。また、精神科医・カウンセラーのリストを作成し、
希望家族、日系医療機関に配布し、当館HPにも掲載した。その他、9月18日から9月末まで
はニューヨーク市が設置した家族支援センターにほぼ常駐し、行方不明者捜索のための情報提供、
DNAサンプルの拠出手続き、米国社会保険給付手続き、米国赤十字給付金受給手続き、葬儀費用
補填手続き等に関する情報収集を行った。最後に、近江領事より「これらの支援活動は、総領事
館館員だけでは質的にも量的にも全く不十分な状況であり、家族支援センターに登録していただ
いていた日本人ボランティア80人の方々や当地在住の医師、弁護士、カウンセラーの方々が協
力していただいた事によりなんとか対応できたものであった。本日この会に参加されている方の
お名前も多くそのリストに掲載されており、総領事館として改めて感謝の意を表明したい」旨の
発言がなされた。
- 子供を通じたカウンセリングの経験について、ニューヨーク教育相談室のバーンズ静子氏が説明
を行った。ニューヨーク教育相談室では、9.11後、学校の場を中心として主として子供のケ
アを行った。阪神大震災時に作成された資料を元に当地に適したメンタルヘルスについてのマニ
ュアルを作成し、資料の配付や電話対応、ワークショップなどを通じて、事件を実際に、あるい
はテレビ等を通じて目撃した子供達にどのように接すれば良いか等について日本の専門家等とも
協力しながらケアや啓蒙活動を行った。総領事館が組織した心のホットラインにも参加して電話
対応を行った。こうした活動を通じて、日本人は心の問題を他人に相談するという経験が少ない
ため、積極的なアウトリーチを行っていく事の重要性が認識された。即ち、心の相談室では1日
に数件のみ、教育相談室の相談は1日に10件程度であったが、子供の相談という形で連絡をし
ているが話をしてみると実際は本人・大人自身の相談である事も事例として少なくなく、ニーズ
はあったと感じられた。講演会を開いても自ら参加する日本人は多くなく、カウンセラー等の専
門家が自ら日本人学校や補習校の集まりに出向いて行く事が重要である。
- 日本人向けサービスを提供するNPOの立場から、JASSIの松沢氏が説明を行なった。JASSIは
9.11直後に会員に対してニーズ調査を行った。調査の結果、役立つと思われる情報の第一は
政府の恩恵、第二は心のケア、以下大気汚染、健康問題などであった。テロの影響については、
事件直後は半数近くの回答者が事件の影響は中等度から高度、事件1年後では中等度から高度の
影響があると回答した者が76%を占め、長期にわたり何らかの影響を感じている者が多い事が
判明した。「今まで当たり前と思ってきた安全性が根底から揺らいだ」この事件はたいへん大きな
出来事であったと認識された。この調査結果を受け、計7回のワークショップ活動等を行い、心
理的対応とケアの提供、情報の提供活動を行った。クライアントとのケースマネージメントを通
じて、「異国で」という要因はトラウマを引き起こしやすい事が改めて理解された。ワークショッ
プ等の活動を通じて、日本人はソーシャルサービスに関する知識が不足している事、ニーズや文
化に沿ったサービスの提供が必要である事が確認された。
- 日本人メンタルヘルス・クリニックの立場から、日米カウンセリングセンターの松木氏が説明を
行った。日米カウンセリングセンターの所属するHamilton-Madison
Houseは、連邦政府機関の FEMA(Federal Emergency and
Management Agency)が資金提供しNY州とNY市が実施した9.
11WTC事件により影響を受けた被災者に心のケアを提供するプログラムであるプロジェクト・
リバティの契約団体として認められて活動を行った。日米カウンセリングセンターはワールド・
トレード・センターから物理的に近かった事もあり、日系企業からの依頼により多くの被害者・
家族・支援者等のカウンセリングを行った。自分が生き残り多くの同僚や消防士が亡くなった事
によるサバイバーズ・ギルトを感じる者、古い心の傷を思い出す者、反テロへのアメリカの団結
に違和感を感じ当地で生活する上で疎外感を感じた者など、多くの事例を経験した。カウンセラ
ー自身も押し寄せるクライアントの大きな悲しみに無力感を感じ、またその無力感を補うために
過度に仕事に没頭し、睡眠もほとんど取らない異常ともいえる事態が長く続く、たいへんな経験
であった。当時日米カウンセリングセンターは資金・スタッフが不足していたが、9.11後、
総領事館の支援により、商工会議所や日系人会、YMCAや日本精神衛生協会などから多くの金銭
的支援を受ける事が出来、たいへん感謝している旨の発言があった。
- NY市の病院・診療所の医師としての経験を、東京海上記念診療所の桑間医師が説明を行った。事
件直後、東京海上記念診療所が所属するベス・イスラエル病院は緊急体制が指示され、緊急患者
受け入れのため、軽症患者の選別と退院作業、救急部周辺廊下などのスペースにベッドや医療機
器を搬送、各病棟から数名ずつの看護師が配置されるなどの緊急体制が整えられた。また東京海
上記念診療所のスタッフも救急作業への招集命令が出され、職場待機となった。しかし、結果と
して怪我人はほとんどなく(被災者はほとんど死亡したため)、クリニックとしては閑散とした状
態が続いた。事件1週間後、日本精神看護師技術協会から犠牲者家族等へのカウンセリング・サ
ポートをしたいとの申し入れがあり、診療所内の会議室を開放し、3週間にわたり15企業延べ
80名の無料カウンセリングが行われた。薬物治療が必要な患者には診療所が抗不安剤など処方
した。10月から11月までは、領事館医務官とソーシャルワーカー主催のカウンセリングが診
療所内の会議室で行われ、1日3名程度のカウンセリングが行われた。その後発生した炭疽菌テ
ロの時は、NY市保健局の発表するガイドラインと実際の治療現場での温度差で対応に苦労した。
(疑いの者にシプロキサンを処方するか否か等につき) 以上の経験から、米国ではガイドライ
ンや組織的対応が重視されており個人の対応には限界がある。このため、日本人だけのための対
応を細やかに柔軟に行っていく事はたいへん難しい。米国の用意したサポートへの橋渡しに力を
入れる事が現実的と思われた。
- NY市保健精神衛生局の対応については、前述のFEMA(Federal Emergency
and Management
Agency)が資金提供しNY州とNY市が実施したプログラムであるプロジェクト・リバティの結果
について、NY市保健精神衛生局の坂上氏が発表を行った。このプログラムはNY地域の100以
上の機関(クリニック、病院、職場等)を通じて述べ100万人以上のクライアントに対してク
ライシス・カウンセリングを行った米国史上最大のメンタルヘルス支援であった。個別カウンセ
リング、グループ・カウンセリング、啓蒙教育の3つを柱とした。2004年4月の時点で、延
べ73万回のカウンセリング・セッションが延べ111万人に対して行われた。メディア・キャ
ンペーンも随時行われ、毎年9月にクライアントが増加した。カウンセリングは日本語を含め2
0カ国語で実施され、結果が分析された。クライアントの性比では女性がやや多く、年齢では成
人が77%を占めた。カウンセリングにおける3大危険因子は、既に存在するトラウマ、学校の
生徒、職場の移転であった。反応については、行動、感情、疾患、認識別に分類され、通常のト
ラウマの場合と同等の症状(神経過敏、不安、不眠、集中力の低下、フラッシュバック等)の出
現が見られた。こうしたプロジェクトの成功のためには、早期介入、既存のメンタルヘルス組織
の強化・利用、機関とプログラムの多様性、各種団体との協力が重要である。(別添7)
発表を受け、本間教授から今後は、市当局から日系コミュニティへとの医療面での連絡や啓蒙に
ついては、当ジャムズネットを利用してもらうのが良いのではないかとの提案が行われた。また、
YMネットワークの磯角氏より、米国赤十字の提供する9.11関連被災者向け支援プログラムの
紹介があり、登録の締め切りが来年1月2日に迫っているとの紹介がなされた。
- ニューヨーク教育相談室の森氏から、9.11時に一時的に形成された「メンタルヘルス・ネッ
トワーク」を再構築してはどうかとの提案があり、了承された。今回参加のメンタルヘルス・カ
ウンセラーを含め、リスト作りを今後進め、ジャムズネットの一セクションとして定期的な活動
を行っていく事とした。精神科の吾妻医師より、リストのメンバーと定期的に会合する事により、
それぞれの専門性を認識し、お互いに紹介しあえるようになることが重要であり、積極的に参加
していきたいとの発言があった。総領事館は会の場の提供等側面支援していく事を表明した。
- 「Japan
Day@セントラルパーク」についての説明が奥山広報センター所長より行われた。この催
しは来年6月3日(日)にセントラルパークで行われる。日系コミュニティへのアウトリーチ、
日本と米国との文化の橋渡しを目的としており、現在実行委員会が組織され、準備が進んでいる
ところである。当ジャムズネットの参加についても希望があれば、総領事館から伝える旨の説明 が行われた。
- 次回は来年2月に開催する事を決定し閉会した。
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