日時:2007年3月1日(木)16時〜18時30分
場所:総領事館19階会議室
参加者: 35名
会議進行: 仲本医務官
主テーマ:「領事館の職務紹介」
(1)仲本から会議の開始に際し、2月9日に、ジャムズネットのサブセクションとしてメンタルヘルスネットワークが立ち上がり、その第1回の会合が行われた事、過去のジャムズネット会合の議事録が当館ホームページに掲載された事の紹介があった。本間教授より、ジャムズネットのホームページについては良く出来ており世界中からアクセス出来る事はすばらしい、この会が世界中のネットワークとつながっていくと良いと考えている、3月11日には母親向け講演会が開かれ、新しいネットワーク出来つつある。今回のテーマ、この会を支援している総領事官がそもそもどうような活動を行っているかについて自分自身も意外に知らない。医療面でジャムズネットが協力出来る事について考える事としたいとの発言がなされた。
(2)「総領事館の職務紹介」というテーマで総領事館担当者から発表が行われた。
- 総領事館全体の職務については佐藤首席領事が説明を行なった。外務省の職務の大きな柱の一つとして邦人援護業務がある。現在、世界中で約100万人の日本人が暮らしている。短期旅行者は年間1700万人、一人あたり平均9日間滞在すると推定され、邦人旅行者は日に30〜40万人滞在している計算となる。すなわち世界中に邦人が常に130〜140万人いる事になる。これは福岡県の人口がそのまま海外にいる事と同じである。しかし福岡県と海外で違うことは、治安の問題である。多くの場合その130万人は治安の悪いところに滞在しており、日々邦人の巻き込まれたトラブルについて解決の支援をしているのが邦人援護業務である。東京で邦人保護課長をしていた当時、世界中から毎日10cm以上の厚さの電報が到着していたが、その3分の1は精神障害事例である。件数にすると数%と報告されているが、精神障害事例の取り扱いはたいへん困難な事例が多く1件1件の報告内容が多くなり、その事が報告電報の厚さに反映されている。こうした精神障害事例について素人である邦人援護担当者がどのように対応したら良いかについて、「領事担当官ハンドブック」が作成され、世界中の邦人援護担当官はこれを元に対応を行っている。今回は、具体的にどのような活動を我々が行っているか知っていただき、皆様にもご協力いただきたいと考えている、との発言がなされた。
- 邦人援護担当の広沢領事より、当館で扱った事例につき具体的な紹介が行われた。まず全体像として、2005年10月現在で在留邦人数は1,012,547人、海外渡航者数は17,403,565人となり、年々増加している。総領事館の主たる仕事に邦人援護活動があるが、2005年の在外公館が取り扱った事件・事故件数(援護件数)は15,955件であった。援護件数の内別件数は、大まかに分けて、強盗・窃盗・詐欺が6,022件、遺失が3,231件、その他が6,702件となっている。当館の取り扱い件数は、2001年443件、2002年446件、2003年418件、2004年435件、2005年484件で、常に在外公館の中で上位を占めている。案件内容としては2005年で見ると、事故・災害が21件、犯罪加害が3件、犯罪被害が109件、その他351件であるが、351件にうち精神障害は36件であった。扱いが困難であった事例として、死亡事案における遺族支援、統合失調症事案の2例、合計3例が具体的に紹介され、遺族への説明の難しさ、精神障害者を日本に帰国させる場合に日本での受け入れ、連携を行う事の難しさなどが説明された。
この発表について参加者より多くの発言・質問がなされた。
吾妻医師から総領事館顧問医としての経験から、自殺してしまったような不幸な例が少なくなるように、リスクファクターを事前に把握しておく事の重要性が指摘された。
アイリーン山口氏から、精神病棟で勤務した自身の経験から、日本人の患者については、日本語で語りかけてあげる事が非常に重要であるとの発言がなされた。
桑間医師から、邦人援護担当官が精神障害事例でこれほど苦労している実態について驚いた。こうした患者さんについての出国規制はどうなっているかとの疑問が呈された。
佐藤首席から、旅券発行を止めるには、相当な理由がないと旅券法上出来ない事、実際には両親と協力して、本人の安全のために海外渡航を控えるように差し向ける等の方法しかとれない実情の説明が行われた。
竹林陽子氏、カウンセラーとして当地で開業している立場から、ブルックリン地区でもこうした事例が増えており、その場合領事館に相談して良いかとの質問がなされた。
佐藤首席領事から、遠慮無く相談してほしいとの回答がなされた。
本間医師より、こうした精神障害事例での医療費用、葬儀の費用についてはどうなっているのかと質問がなされた。
広沢領事より、医療費については最終的に米国の困窮者向け医療保険(メディケイド)の対象になっている事、葬儀費用については日本の家族の意向に沿って対応している事が回答された。
佐藤首席から、困窮邦人に対して、国がお金を貸し出す制度がある事について追加説明が行われた。
小林利子氏から、我々も通訳として役に立つ事があると思われるので、遠慮無く総領事館から連絡してほしい、との提案が行われた。
竹林陽子氏から、性犯罪被害者については、その後の心のケアが重要である事の指摘がなされた。
- 医務官の立場から、邦人援護に関わった例の紹介が仲本医務官から行われた。外務省医務官の主たる職務は、
- 在外公館に勤務して職員・家族の健康管理を行う。
- 現地医療事情の調査・報告を行い、在留邦人に医療情報を提供する。
- 旅行者・在留邦人の保健相談に応じる。
- 邦人援護業務の支援
であるがこの内、近年緊急時・災害時に邦人のケアを行うケースが増加し、その事を受け2006年に医務官の訓令が改正された。医務官は世界中で現在71公館に勤務している。医務官報告によれば、医務官室を受診した相談者数の合計は1985年までは1万6千人程度であったが、年々増加し、1995年以降は3万人を超えるようになった。その内、3分の2を館員・家族、3分の1を在留邦人・旅行者が占めている。疾病別に見ると、国別で差違があり、インドネシアでは感染症・寄生虫症、消化器疾患が多いのに対し、ニューヨークの場合には、呼吸器疾患、精神・及び行動の障害などが上位を占めている。医務官が関わった邦人援護事例の主な物としては、1996年のペルー日本大使公邸事件、1997年のガルーダ航空機墜落事件、1999年のキリギス人質事件、2000年中央アフリカ邦人脱出等々がある。この内、仲本医務官自身が関わったハワイ沖えひめ丸海難事故について、外務省が何を行ったか、邦人援護担当官がどのように支援したか、医務官がどのように関わったかについての説明が行われた。こうした経験から、領事担当官向けのハンドブックが作成された事についても紹介された。
- 次に、田附領事部長より、自身が経験した精神障害事例の取り扱いの難しかった例についての説明が行われた。
松下美智子氏から、留学生のお世話をしている経験から、学生が躁鬱病になり入院したところ、医療費の請求額が数百万円であった事例が紹介され、こうした場合どのように対応したら良いかとの質問がなされた。
本間医師、桑間医師より、そうした場合には、病院のファイナンシャル・デパートメントに相談する、ソーシャルワーカーに相談すると、割引が得られるケースがある事が紹介された。
ニューヨーク教育相談室のバーンズ静子氏より、留学生については精神科事例についてカバーされない医療保険に加入しているケースが多い事が紹介され、若年者については不登校、摂食障害などの事例が少なくなく、精神科領域についてもカバーされる保険に加入するように啓蒙していく事が重要であるとの発言がなされた。
- 上記発表を受け、本間教授から、総領事館の邦人援護のたいへんさが理解出来た。今後は、入院患者のサポートをするネットワークを作っていく必要があるのではないかと提案が行われた。
(3)仲本医務官から、6月3日に行われる予定の「Japan Day@セントラルパーク」へのジャムズネットの参加について、決定はされていないが可能性は高いとの説明があり、決まればそれについて事前にお知らせすると発言がなされた。
(4)Heart to Heartの窪田絵里氏から、先日無事邦人幼児の心臓移植が当地で行われたとの報告がなされた。Heian-NYの長谷川氏から3月4日に定例会が行われ、介護保険についての説明が行われる予定であるとの紹介が行われた。YMメディカルネットワークの磯角氏より、3月16日に第17回目の会合が行われ、医療ボランティアについて話し合われる事が紹介された。
(5)次回は6月頃に開催する事として閉会となった。
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