海外安全対策連絡協議会(第15回)
2004年4月8日
4月8日、日系関係25団体の皆様が参加し第15回目の協議会が実施されました。同会議では総領事館佐藤博史首席領事より、「イラクでの日本人誘拐事件に関する報告」と「危機管理と官民協力」についての報告が行われた他、参加団体の皆様及び総領事館各担当によって当地のテロ・治安状況等につき意見交換が行われましたので概要について下記の通り紹介致します。 安全対策協議会とは
当地の治安やテロ情勢及び邦人の安全対策等について情報交換を行うため設置され、当地日系団体、日系メディア、旅行業界など関係者が参加して、年4回(四半期毎)会合が開催されています。
イラクにおける日本人誘拐事件の発生について
4月8日、イラクで邦人3名が人質となった旨の情報を受け、日本政府が把握する情報及び対応状況につき報告。併せて、ニューヨーク総領事館では本件誘拐事件の発生を受け、在留邦人の方々へ緊急メールを発出した旨報告しました。また、誘拐被害を未然に防ぐためには常に注意を怠らないことが必要であることを説明しました。
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危機管理における官民協力について
佐藤博史首席領事(前外務省邦人保護課長)より、1997年にエジプトで発生した「ルクソール事件」で得た経験から、「海外では自分の身は自分で守る」ことが重要であること、また、このような事件が発生した際に早急に日本人の安否を確認するためには、総領事館だけでは不可能であり、民間の方々の協力が不可欠である旨報告しました。
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当地テロ・治安状況等の総合的レビュー
協議会参加団体の皆様及び総領事館担当によって下記当地テロ・治安状況に関する総合的な報告・分析が行われました。
?@社会治安情勢
?A殺人強盗等凶悪犯罪の事例及び一般犯罪の傾向
?Bテロ爆弾事件発生状況
?C誘拐脅迫事件発生状況
?D対日感情
?E日本企業の安全に係わる諸問題
?Fその他邦人の安全対策のために取られている具体的措置
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イラクにおける日本人誘拐事件の発生について
(佐藤博史在ニューヨーク総領事館首席領事)
約1ヶ月半前に福川首席領事の後任として着任致しました。本日は自己紹介の後、「危機管理と官民協力」について、前職の外務省邦人保護課長としての経験を踏まえてお話しする予定でしたが、本日午前(4月8日)、邦人の安全上の問題に関する大きなニュースが飛び込んで来たので、この件につきまずご報告申し上げます。
1.ニューヨーク時間8日午前5時20分頃、イラクで邦人3名が人質となった旨外務省に一報が入りました。中東の衛星テレビ放送局アル・ジャジーラは人質の存在を示す映像を報道しており、その中で今井紀明氏、郡山総一郎氏、高遠菜穂子氏の3名が「サラヤ・アル・ムジャハディン」と云うグループに拘束されている様子が放映されています。また、同グループは自衛隊がサマーワから3日以内に撤退しない場合には、人質を殺害する旨の声明文を出しています。上記事態を受け、日本では政府が直ちに対策本部を立ち上げました。
当館で承知している本件に関する概要は以上であり、現段階では日本政府は事実関係を確認中であります。
2.ニューヨーク総領事館ではニューヨークの方々に影響のある安全関連情報を発出する「緊急メール」システムがあり、本日(8日)日本人誘拐事件の発生を受け、在留邦人の方々に緊急メールを発出しました。
現在、当館緊急メールに登録している邦人の方々は約16,000人であり、海外安全対策連絡協議会メンバーにおかれては本日の緊急メールの内容について、各メンバー組織関係者等に伝達頂きたい。こうした事件は単にイラクのみならず他の地域でも発生する可能性を排除できずニューヨークも例外ではありません。当地の在留邦人の方々は9.11を経験しておられ、テロの危険性を既にご承知とは思いますが、一層身の回りの危険に注意する必要があることを申し上げたい。
3.誘拐事件には必ず兆候があります。監視をされたり、見慣れない人物が家の前に立っていたりする等です。これらの兆候を見逃した場合誘拐の被害に遭うといったこととなります。従って、常に注意を怠らず兆候を見逃さないことにより、誘拐事件の被害の可能性をかなり減らすことができます。
危機管理における官民協力について
(佐藤博史在ニューヨーク総領事館首席領事)
私はエジプト在勤中に「ルクソール事件」に遭遇しました。外国人観光客58名がイスラム原理主義者6名に殺害された事件ですが、殺害された被害者の中10名が日本人旅行者の方々でした。
このルクソール事件について、危機管理や危機管理における官民協力がいかに大事かということを認識頂くためにお話をしたいと思います。
ルクソール事件は1997年11月に発生しました。ルクソールはカイロから南に600kmの距離にある観光地であり、同地のハトシェプト女王葬儀殿にいた外国人観光客58名及びエジプト人4名が6名のイスラム原理主義者に殺害され、その中に10名の邦人旅行者の方々がいらっしゃったと云う大変悲惨な事件でした。
この事件発生を機会に私は色々な教訓を得ましたが、その内2つの重要なものを紹介させて頂きます。一つの教訓は「海外では自分の身は自分で守ることが重要である」ということです。私は事件が一段落着いた後に真相解明を行いました。当初私はこの事件がハトシェプトと云う閉ざされた空間にいた58名の旅行者の方々が偶然事件に遭遇し、死亡した不幸な事件と捉えていました。しかし、調べを進めるうちに必ずしもそうでないと云うことが判ってきました。当時現場には被害者の約倍の数の外国人旅行者の方々(スイス人、アメリカ人)が居合わせていました。スイス人の一部はハトシェプト女王葬儀殿の柵を越え約7メートル下に飛び降り、怪我をしながらも助かったものが大勢いました。また、アメリカ人には1人も死亡者はおらず、葬儀殿の奥に隠れ全員難を逃れています。日本人は10名(この他1名が重傷)全員祭儀殿の真ん中で寄り添うように倒れ死亡していました。つまり日本人の方々は1人も逃げなかったということです。これについての私の個人的な感じとしましては、スイス人、アメリカ人は日頃から危険に遭遇した場合には即座に避難することに慣れており、被害に遭われた日本人はそうでなかったということです。集団で固まりじっと嵐の収まるのを待ったことが多くの死亡者を出したと考えています。このような行動は、単にこの事件で被害に遭われた方々のみならず、日本人すべてがそうであろうと思われます。しかし、海外では、それでは通じません。海外では自分の身は自分が守るということを肝に銘じ、銃声がしたらどこかに伏せる、そして退避する等の行動を取ることが必要であると申し上げたい。
二つ目の教訓は、これは官民協力の重要性の話です。この事件で苦労したのは事件が発生した際に日本人の安否を確認することでした。ルクソール事件のように公共スペースでテロが行われた際、日本人の方々が事件に巻き込まれたか否かについて即座に確認することは困難です。いわゆる「オープン・ディザスター」であり、搭乗者名簿で安否確認ができる航空機事故とは全く異なります。当時日本大使館員は現地で日本人緊急連絡網を通じ安否確認を行うと共に、日本人の宿泊可能性のあるホテル、現地旅行代理店一つ一つ電話連絡を行い被害者の有無の確認作業を行いました。
また、本邦家族から大使館に安否問い合わせのある人物について記録し、一つずつ確認を行っていきました。そのうち現地旅行代理店の1つから取扱っている邦人旅行者の団体と連絡が取れなくなっているとの情報が寄せられ、結果的に被害者の人定が確定しましたが、情報を入手するまで長時間を要しております。
従って、私はこのような安否確認作業の経験を踏まえ、こうした大規模事件・事故が発生した場合に大使館・総領事館と民間団体が協力することにより、早急に日本人の被害者の有無を確認することができる体制を構築することができないかと考えておりますので、今後この協議会の場を使い本件を議論して行きたいと思っています。何か起こった時、民間の方々による積極的な協力は是非必要であり、総領事館だけががんばっても、素早い対応はできないと考えるので是非宜しくお願い致します。このような問題を含め、この海外安全対策協議会の場は邦人の安全対策を考える上で非常に重要と考えておりますので、今後とも自由活発なご意見を頂きたいと存じます。
当地テロ・治安状況等の総合的レビュー
1. 治安社会情勢及び一般犯罪の傾向
(1)2004年1月〜から3月14日までの間のニューヨーク市における犯罪発生状況は、昨年同期と比較して、−1.92%の減少となっています。
減少した犯罪は罪種別では、強姦−3.2%、強盗−3.8%、暴行が−7.1%、自動車盗−7.6%となっています。
逆に増加したのは、殺人が+3.8%、侵入窃盗+0.5%、窃盗+2.8です。
ニューヨークにおける犯罪発生率は1991年から毎年減少を続け、2003年まで13年連続の減少となっています。10年前と比較すると66%の減少となっております。
ニューヨークは日本と比較すれば、まだ犯罪発生率は高いものの、警戒さえ怠らねば犯罪に遭う恐れは改善されてきていると言えます。
(2)テロ情勢については、マドリードにおけるテロ事件後、ニューヨークにおいても同様のテロ発生が懸念され、地下鉄・鉄道における警戒が強化されていますが、パレスチナ系イスラム原理主義組織、ハマスのリーダー、ヤシン氏がイスラエルによって暗殺されたことにより緊迫の度合いが更に高まっています。ニューヨークのユダヤ人人口は、世界でイスラエルに次いで多く、ハマスにとって格好のテロ標的となり得ます。また4月5日から13日までは、パスオーバー(過ぎ越し祭)というイスラエルにとって重要な祭日にあたり、この時期にタイミングを合わせたテロの発生の可能性も指摘されています。
2.殺人・強盗等凶悪犯罪の事例
(1)強盗
邦人被害の事件については認知していません。
ニューヨーク市内における凶悪犯罪が減少傾向の中、銀行強盗は激増しています。
2003年中には408件発生しており、2002年と比較して64%増となりました。本年も多発傾向は続いており、ニューヨーク市警は各金融機関に対して、防犯設備を改善するなど警戒強化を求めています。
手口としては、店員に「拳銃を持っている。金を出せ」と書いたメモを手渡すと
いう形態のものが多く見られます。
(2)殺人事件
邦人被害の事件は認知していません。
麻薬取引にからむトラブルや不良グループの抗争などにおいて発生する場合が多く見られます。
(3)強姦事件
邦人被害としては、留学生がパーティーなどで知り合った相手の家について行って強姦されるというケースが発生しています。
3.テロ・爆弾事件発生状況
関連情報無し
4. 誘拐・脅迫事件発生状況
関連情報無し
5.対日感情
(1)日米関係は良好で、メディアにおいて対日感情にネガティブな影響を及ぼす報道も見られません。日本の自衛隊イラク派兵が昨年12月から段階的に実施され、新聞・テレビでも度々取り上げられたことは、米一般市民に対しても日米の同盟関係を強く印象づける効果があったと考えられます。他方、イラク戦争反対派にとっては日本も非難の対象になり得る可能性は排除されません。
(2)3月24日の中国人による尖閣諸島への不法上陸事件に関連して、同月30日に総領事館ビルの前で昼休みの時間帯に中国人団体による反日デモが行われました。不法上陸事件の5日前、3/19付WSJ紙(一面)は、インターネットにおける中国のナショナリスト活動家の運動を取り上げ、反日ウェブサイトの一つである「Patriots’
Alliance
Web」では、対日批判のための南京旅行や、尖閣諸島への抗議旅行のための資金集めを呼びかけていると報じています。このような報道が、当地の中国人コミュニティの対日感情を刺激する恐れもあり、注意を要します。
6.日本企業の安全に係わる諸問題
関連情報無し
7.その他邦人安全対策のために取られている具体的措置
当館ホームページに以下を掲載し、安全上の情報提供を行っています。
(イ)緊急情報として以下を提供しました。
(a)米国におけるテロ警戒レベルの引き下げについて(1月9日付)
(b)アル・カイーダ幹部によると見られる米国に対するテロ攻撃の声明について(2月25日付)
(c)アル・カイーダ関係組織を名乗る者によるテロ攻撃の声明について(3月19日付)
(d)ハマス指導者殺害等に伴うテロ攻撃に関する米国務省の警告について(3月24日付)
(e)米国の公共交通機関に対するテロの可能性について(4月2日付)
(ロ)一般情報として以下を提供しました。
(a)日本人が被害にあった盗難事件について(2月3日付)
(b)米国に食品を発送あるいは持ち込む場合の米政府による規制について(2月5日付)
(c)ニューヨークの路上では感電にご注意(2月6日付)
(d)鳥インフルエンザに関する情報について(2月18日付)
(e)窃盗・盗難等の被害にあったらまず警察に被害届を(3月15日付)
(f)米国に旅行される方の安全対策・空港でのセキュリティ・チェックについて
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